令和4年産 一番茶の生産対策

 昨年の県茶市場の荒茶価格は,一昨年のコロナ禍を受けた減産や生産自粛による繰越在庫の減少,コロナ禍の状況を踏まえた販売対策の実施などからやや持ち直しました。しかし,選択買いや品質による価格差は依然として大きいですので,令和4年産も「芽格・色沢・水色」の三拍子揃った‘手触りの柔らかい’良質茶生産を心がけてください。
 本県では平成5年から「クリーンなかごしま茶づくり」運動に取り組み,現在第10期対策が進められています。今後はSDGsや新たに策定された「みどりの食料システム戦略」を念頭に‘生産力の向上と持続性の確立’の両立が求められます。

◎ 令和3年の気象変動への対応

 近年,地球温暖化の影響で気象変動が大きくなっており,昨年は1月上旬の低温や2~3月の高温,5月の早い梅雨入り,8月の長雨,10月の高温少雨等の天候不順が続き(図1,2),一番茶の不そろい・減収対策や,発生時期が早まり多発生する病害虫への防除,茶期の早進化による最終摘採時期の調整,などに対応しました。
 今後も,気象予報を積極的に活用し,基本技術をもとに臨機応変の対応が必要です。

図1 令和3年の平均気温の推移(枕崎)

図1 令和3年の平均気温の推移(枕崎)

図2 令和3年の降水量の推移(枕崎)

図2 令和3年の降水量の推移(枕崎)

◎ 生葉生産技術

1 春の園揃え
(1)時 期  早場・中間地帯:2月中~下旬   遅場地帯:3月上旬
(2)高 さ
  ア 秋整枝面と同じ高さを基本とする(冬芽を切らない)
  イ 再萌芽等で冬芽が出芽や開葉している場合は,秋整枝面より10mm程度上げて,展開した冬芽だけを切り落とす。
2 施肥,防除
(1)施 肥
  ア 春 肥   1回目:1月下旬~2月上旬  2回目:2月下旬~3月上旬
  イ 芽出し肥  3月中旬~下旬(摘採25日前)速効性肥料
         降雨が少ない場合は,かん水や液肥を用い肥効を高める。
  ウ 夏 肥  1回目は一番茶摘採直前~直後,2回目は二番茶摘採直前~直後
(2)防 除
  ア 地区の防除暦を参考に,病害虫の発生状況をしっかり観察し防除する。
  イ カンザワハダニ,チャノナガサビダニの防除〈2月下~3月上旬〉
 病害虫防除所が昨年10月に行ったカンザワハダニの巡回調査では,発生ほ場率,寄生葉率が高くなっている。発生のやや多いほ場では,天敵のカブリダニ類の寄生が認められているが,今春の発生状況に注意する。
  ウ ハマキ天敵(発生予察に基づいて散布),ハマキコンNの活用〈3月中旬頃〉
  エ チャトゲコナジラミの防除〈5月上~中旬(昨年は気温が高く4月中旬~)〉
 昨年1月に種子島でも発生が確認され,県内ほぼ全域に拡大した。同島では天敵シルベストリコバチ(みかん系統)の寄生が確認された。シルベストリコバチの保護活用を図りながら,「すす病」が見られるような多発園では茶園の更新や裾刈りを行い,一番茶後に防除ができない場合は秋期防除も検討する。

図3センサー設置

図3センサー設置

3 防 霜
(1)点検・センサーの設置
  ア 防霜施設が正常に作動するか早めに入念に点検する。
  イ 防霜ファンでは,支柱の傾きや,回転や首振り,電気配線の損傷,センサーの稼働,落雷による故障など注意する。
  ウ スプリンクラーでは,水量の確保や,目詰まり,ヘッドの回転異常,漏水,道路への飛散などに注意する。
  エ 新芽が生育すると,樹冠面に置かれたセンサーが茶葉に覆われて,センサー温度と茶葉温度に大きな差が生じるため,センサーは茶株面に置いた木板上に固定する(図3)。また,外縁部から3m以上内部に設置する(周辺部の気温は高い)。

(2)開 始
  ア 防霜開始は摘採45日前(萌芽期2週間前)を目安とするが。早生品種では冬芽の耐凍性が,2月下旬頃から3月上旬にかけて急速に低下するので(図4),さらに10~15日前に開始する。「ゆたかみどり」の萌芽日が早進化し,低温遭遇率が高まっているので芽つぶれに注意する。県農総センター茶業部の耐凍性調査情報を参考にする。

図4 冬芽の-8℃における被害発生率(平成6~7年)

図4 冬芽の-8℃における被害発生率(平成6~7年)

4 被覆・摘採
(1)被 覆
 被覆は2~3葉期頃から行い,中7日程度とする。被覆開始の遅れや摘採の遅れ,強風による葉傷みに注意する。気温が低い際は被覆期間を延長する。
(2)摘 採
  ア 茶芽の生育状況を常に観察し,早めの摘採開始を心がける。また,摘採適期が最大となる頃に工場処理能力が最大となるよう摘採計画を立てる。
  イ 「ゆたかみどり」の深蒸し茶生産では,出開き度が低すぎる(摘採時期が早すぎる)と色沢が赤褐色を帯びて劣るため,葉が展開し色が乗ってから摘採する。
  ウ 摘採機の刈り刃の調整(刃研ぎ,すり合わせ)を早めに実施する。また,作動オ イルや燃料などの漏れは油臭の原因となるので点検する。
  エ 摘採前に茶株面の落ち葉,木枝,被覆資材のピンチ等は取り除く(異物混入防止)。
  オ 白茎の混入を防ぐには,摘採は新芽が折れる位置で行う。硬葉化するにつれ摘採位置を上げる。
  カ 出開き度80%程度を越すと急速に品質が低下するため,多収を目的とするドリンク原料茶生産の場合などにおいても,芯が残るうちに摘採する。
  キ 摘採は切れ葉が少なくなるよう丁寧に行う(切れ葉は水赤の主要因)。
  ク 摘採葉は直射日光に当てないよう工夫し,早めに工場に運び,適切に管理をする。
5 一番茶摘採後の整枝
(1)2回整枝
    1回目:摘採直後~5日目 摘採または刈番茶位置
       (摘採面が均一(2回目で茎が切られない)な場合は摘採を1回目と見なす)
    2回目:17~22日目(二番茶萌芽期2~3日前,萌芽している芽を切らない)
        1回目より0.5cm程度高
(2) 芽重型茶園などで高い位置で摘採した後に,刈番茶を兼ねて摘採位置より下げて整枝する場合,時期が遅くなると二番茶の収量,品質が低下するので早めに行う。

◎ 加工技術

1 荒茶製造 製茶前に機械の点検・調整と清掃(水赤,異物混入の防止)を徹底する。
(1)蒸 熱
  ア 蒸気量は生葉投入口から湯気がわずかに立ち上がる程度(0.3kg/kg)で,湯気が多す ぎると蒸し葉がべたつき,重油の浪費である。湯気が出ないのは,蒸し不足の恐れがある。
  イ 蒸し葉の色は荒茶色沢に強く影響する(蒸し葉の色で荒茶色沢を想像する)。
蒸し度の判断で有力な手法は葉色の変化に着目することで,上位葉ほど葉緑素量が少なく,蒸熱時間が長くなることで葉緑素の変化(緑→黄色→褐色)が見やすい。
(2)粗 揉
  ア 簡易に機内の茶葉の動きで風量設定が可能で,機内の茶葉が排気網に届かず,放物線を描いて戻ってくる状態が適正な「しとり」状態。排気網に直接当たるようでは風量が多く上乾きし固い茶となり,まったく飛ばない状態では風量が少なく能率が低下し飴色やくすんだ茶になる。
  イ 粗揉機の取り出し程度は,太い茎を取り出し,押しつぶしたとき,水分が出なくなる程度とする。茎は水分が多く,中揉以降で色沢が低下し飴色となりやすい部位なので,粗揉取り出し時に水分を切っておくことが重要である。
(3)中 揉
 空気が乾燥する一番茶期は,天気が良いと乾燥が早く,取り出し遅れになりやすいので注意する。遅れると茶葉が固く,つや不足,伸び不足になる(精揉操作がしにくい)。
(4)精 揉
 操作の要領は,分銅で圧力をかけ水分を押しだし,表面が乾いてきたら再び圧力を加える操作を繰り返す(引きが遅れている事例が多い)。茶葉が揃いだしたら戻し始める。

普及技術 図5 水分計

普及技術    図5 水分計

(5)乾燥機
 近年,乾燥不足を心配するあまり,乾燥機の温度を上げて対応し,過乾燥となり葉緑素が熱で破壊され,色沢が飴色となる事例が見られる。精揉機に比べ荒茶の色沢が低下していたら,乾燥機は温度に頼らず風量を増やす。乾燥程度の確認はハロゲン 型水分計を活用する(図5)。本水分計は設定を変えるこ とで,生葉,粗揉葉,中揉葉,精揉葉を簡易に測定できる(県農総センター茶業部令和2年度普及技術)。

 

2 茶市場情報の活用
 コロナ禍で茶市場へ出向き,自分の目で品質確認を行う ことが難しいため,
「ちゃぴおんねっとシステム」の出荷茶の画像や入札結果,販売実績などを積極的に活用し,品 質改善やほ場・品種毎の売上実績を整理するなど経営戦略 に役立てる(図6)。

 

◎ てん茶の生産技術

1 被覆方法
 被覆は一般的に直がけで遮光率85%資材を用い,茶芽が1.5~2葉程度の時期に開始し,期間は一番茶で18~23日,二番茶で10~14日とする。被覆開始が遅くなると,天候によって摘採時期が早まった場合,十分な被覆効果が得られなくなるため,遅れないよう注意する。
2 摘採時期
 一番茶では遮光を開始してから20日目頃が摘採開始の目安であるが,気象条件によって生育に遅速がある。他の茶種に比べ出開き度の進んだ状態(80~90%)となるが,新芽の硬化が進む前に摘採することが重要である。摘採が遅れると下位葉が硬化し,裏白や黒み等の品質低下につながる。
3 てん茶品質の優れる品種
 本県では加工用てん茶特性が粉末茶の色沢などで検討されており,「さえみどり,おくみどり,せいめい,かなやみどり」などで優れている。なお,「せいめい」は令和2年に品種登録された農研機構育成の新品種で,主要病害の抵抗性が炭疽病「中」,輪斑病「強」,赤焼病「やや強」で,有機適応度の高い品種と考えられる。

◎ クリーンな「かごしま茶」づくり

 「茶は食品,茶工場は食品工場」との強い意識を持ち,工場内外の清掃に努める。
茶は単品でなく配合することが前提のため,異物混入があれば多大な損害を被る。
 異物混入防止対策や降灰対策,農薬の飛散防止対策,生産履歴記帳管理対策(履歴開示は開示請求から5日以内)などを徹底する。「お知らせ旗」の設置に取り組む。
1 栽培・製造等作業時の安全対策
(1)機械・施設等の安全講習会等に参加し,正しい取扱方を身につけるとともに,安全作業の意識向上に努める。
(2)機械・施設等の保守点検を定期的に実施するとともに,使用時には始業前点検を確 実に実施する。なお,点検する場合は,必ずエンジンや主電源を切ってから行う。
(3)寝不足や風邪気味など体調がすぐれないときは,危険度が増し,重大事故につながるので,作業計画の変更や休憩をとるなど体調管理を十分行う。