令和7年産 一番茶の生産対策

 昨年の県茶市場荒茶価格は,一番茶では在庫過多や日照不足による価格の低下が見られたものの,三番茶以降,飲料用原料の調達が見られ,底堅い相場が続き,年間実績としては,昨年並みでありました。また,昨年同様,燃油や肥料・資材の高騰の影響により茶業経営は逼迫しました。一方,有機茶やてん茶は,茶商からのニーズも高く,高値の取引となりました。
 令和7年産も選択買いや品質による価格差が想定されますので,「芽格・色沢・水色」の三拍子揃った‘手触りの柔らかい’良質茶生産とあわせ,コスト低減に努めてください。
 さらに,昨年は気象に悩まされた年でしたが,引き続き,気象予報を積極的に活用し,基本技術をもとにした臨機応変の対応が必要です。

◎生葉生産技術

1.春の園揃え

(1)時期 早場・中間地帯:2月上~中旬
      遅場地帯:2月下旬~3月上旬
(2)高さ
   昨年は10月~11月に気温が高く推移し、秋整枝の早かった茶園は再萌芽が多く見られた。再萌芽等で冬芽が出芽や開葉している場合は、秋整枝面より5~10mm程度上げて、展開した冬芽だけを切り落とす(図1)。

図1冬芽の状態(再萌芽)

2.施肥,防除

(1)施 肥 
 ア 春 肥  1回目:1月下旬~2月上旬  2回目:2月下旬~3月上旬
 イ 芽出し肥 3月中旬~下旬(摘採25日前)速効性肥料
        降雨が少ない場合は,かん水や液肥を用い肥効を高める。
 ウ 夏 肥  1回目は一番茶摘採直前~直後,2回目は二番茶摘採直前~直後
        ※なお,堆肥・粗大有機物等で代替できる分は,代替利用を行う。
         低コストの堆肥入り配合肥料等を活用する(ミドリッチ等)。
(2)防 除
 ア 地区の防除暦を参考に,病害虫の発生状況をしっかり観察し防除する。
 イ カンザワハダニの防除〈2月下~3月上旬〉
    近年,カンザワハダニの春季の発生は少なくなり,代わりに8月頃に更新園な
   どで多くなっている。これはカブリダニ類など天敵の働きが影響している。
    秋季に発生のやや多いほ場では,天敵のカブリダニ類の寄生が認められている
   が,今後の発生状況に注意する。
 ウ クワシロカイガラムシの防除〈5月上~中旬〉
    発生量は少なくなったが,各世代の発生時期は早まっている。
 エ チャトゲコナジラミの防除〈5月上~中旬〉
    昨年の発生量は平年より少なく推移。成葉が一面に「すす病」で覆われ黒くな
   った茶園では,一番茶に減収等の影響が出るので,土着天敵のシルベストリコバ
   チの保護・活用を図りながら,茶園の更新や裾刈りを行い,一番茶後に防除がで
   きない場合は秋期防除も検討する。
 オ チャノホソガの防除〈5月中~下旬〉一部地域では,ジアミド剤やIGR剤の防
   除効果の低下が見られている(サムコルフロアブル10,カスケード乳剤等)。

3.防 霜

(1)点検・センサーの設置
 ア 防霜施設が正常に作動するか早めに入念に点検する。
 イ 防霜ファンでは,支柱の傾きや回転,首振り,電気配線の損傷,センサーの稼働,落雷による故障などに注意する。
 ウ スプリンクラーでは,水量の確保や,目詰まり,ヘッドの回転異常,漏水,道路への飛散などに注意する。
 エ 新芽が生育すると,樹冠面に置かれたセンサーが茶葉に覆われて,センサー温度と茶葉温度に大きな差が生じるため,センサーは茶株面に置いた木板上に固定する(図2)。また,外縁部から3m以上内部に設置する(周辺部の気温は高い)。

図2センサー設置

(2)開 始
 ア 防霜開始は摘採45日前(萌芽期2週間前)を目安とする。早生品種では冬芽の耐凍性が,2月下旬頃から3月上旬にかけて急速に低下するので(図3),さらに10~15日前に開始する。「ゆたかみどり」の萌芽日が早進化し,低温遭遇率が高まっているので凍害に注意する(図4)。県農総センター茶業部の耐凍性調査情報を参考にする。  

図3 冬芽-8℃における被害発生率(平成6~7年)
図4冬芽の凍霜害の程度
耐凍性情報

4 被覆・摘採

(1)被 覆
   被覆は2~3葉期頃から行い,中7日程度とする。被覆開始の遅れや摘採の遅れ,強風による葉傷みに注意する。気温が低い際は被覆期間を延長する。
(2)摘 採
  ア 茶芽の生育状況を常に観察し,早めの摘採開始を心がける。また,摘採適期が最大となる頃に工場処理能力が最大となるよう摘採計画を立てる。
  イ 「ゆたかみどり」の深蒸し茶生産では,出開き度が低すぎる(摘採時期が早すぎる)と色沢が赤褐色を帯びて劣るため,葉が展開し色が乗ってから摘採する。
  ウ 摘採機の刈り刃の調整(刃研ぎ,すり合わせ)を早めに実施する。また,作動オ イルや燃料などの漏れは油臭の原因となるので点検する。
  エ 摘採前に茶株面の落ち葉,木枝,被覆資材のピンチ等は取り除く(異物混入防止)。
  オ 白茎の混入を防ぐには,摘採は新芽が折れる位置で行う。硬葉化するにつれ摘採位置を上げる。
  カ 出開き度80%程度を越すと急速に品質が低下するため,多収を目的とするドリンク原料茶生産の場合などにおいても,芯が残るうちに摘採する。
  キ 摘採は切れ葉が少なくなるよう丁寧に行う(切れ葉は水赤の主要因)。
  ク 摘採葉は直射日光に当てないよう工夫し,早めに工場に運び,適切に管理する。

◎加工技術

1 荒茶製造 

製茶前に機械の点検・調整と清掃(水赤,異物混入の防止)を徹底する。

(1)蒸 熱
 蒸し程度の違いにより品質の特徴は大きく異なる。蒸し時間が長くなるにつれ,葉緑素の分解が促進するので,味はコクが強く,香りは新鮮香が弱く,水色は濃い緑色となる(図5)。
 自工場の製茶機械に適応した蒸し,原料に応じた蒸しを行う。

図5 蒸し程度の違いによる品質特徴(お茶百科)

(2)粗 揉
   機内の茶葉の動きを確認することで,簡易に風量設定が可能。機内の茶葉が排気網に届かず,放物線を描いて戻ってくる状態が適正な「しとり」状態。排気網に直接当たるようでは風量が多く上乾きしやすく,まったく飛ばない状態では能率が低下する。取り出し程度は,茎にしわができ,つぶしても水分が出なくなった程度となる。
(3)中 揉
   空気が乾燥する一番茶期は,天気が良いと乾燥が早く,取り出し遅れになりやすいので注意する。遅れると茶葉が固く,つや不足,伸び不足になる(精揉操作がし にくい)。
(4)精 揉
   操作の要領は,分銅で圧力をかけ水分を押しだし,表面が乾いてきたら再び圧力を加える操作を繰り返す(引きが遅れている事例が多い)。茶葉が揃いだしたら戻し始める。

(5)乾燥機
   近年,乾燥不足を心配するあまり,乾燥機の温度を上げての取出し過乾燥となり葉緑素が熱で破壊され,色沢が飴色となる事例 が見られる。精揉機に比べ荒茶の色沢が低下していたら, 乾燥機は温度に頼らず風量を増やす。乾燥程度の確認はハ ロゲン型水分計を活用する(図6)。本水分計は設定を変 えることで,生葉,粗揉葉,中揉葉,精揉葉を簡易に測定 できる(県農総センター茶業部令和2年度普及情報)。

普及情報
図6 水分計の活用

2 茶市場情報の活用

 茶市場へ出向き,自分の目で品質確認を行ったり,出 向くのが困難な場合は,「ちゃぴおんねっとシステム」 による出荷茶の画像や入札結果,販売実績などを積極的 に活用し,品質改善やほ場・品種毎の売上実績を整理す るなど経営戦略に役立てる(図7)。

図7 出荷茶の画像と品質情報

◎てん茶の生産技術

1 被覆方法

被覆は,一般的に直がけで遮光率85%資材を用い,茶芽が2葉期程度の時期に開始し,期間は一番茶で20日(表1),二番茶で1  0~14日程度とする。被覆開始が遅くなると,天候によって摘採時期が早まった場合,十分な被覆効果が得られないため遅れないよ  う注意する(図8)。

2 摘採時期

一番茶では,遮光を開始してから20日目頃が摘採開始の目安であるが,気象条件によって生育に遅速がある。他の茶種に比べ出開き度の進んだ状態(80~90%)となるが,新芽の硬化が進む前に摘採することが重要である。摘採が遅れると下位葉が硬化し,色沢や香気等の品質低下につながる(表1)。

3 てん茶品質の優れる品種

 本県では加工用てん茶特性が粉末茶の色沢などで検討されており,「さえみどり,おくみどり,せいめい」などで優れている。
 なお,「せいめい」は令和2年に品種登録された農研機構育成の新品種で,本県では,令和3年にかごしま茶「せいめい」研究会を発足し,産地化と高品質・安定生産技術の開発に取り組んでいる。

図8 遮光率資材の違いによる粉末の色相角度(R4)

◎ 有機栽培茶への取組

 本県は有機栽培茶への転換が進み,令和5年度の有機JAS認証面積は,624haとなり,県内茶園面積の約8%を占めている。有機茶は,世界各国に輸出可能でニーズが高い。
有機栽培を始めるにあたっては,既存の茶園の転換,または新・改植により取り組むことになるが,収量・品質を備えた病害虫抵抗性品種の選定が重要である(表2)。工場の操業や運営なども考慮し,品種を選定する。また,近隣ほ場からの農薬飛散防止のため,有機茶園の団地化を推進する。なお,長期に残留する農薬もあるので,有機転換するほ場は,事前に過去の散布履歴の確認や残留農薬分析を実施する。

◎ クリーンな「かごしま茶」づくり

 「茶は食品,茶工場は食品工場」との強い意識を持ち,工場内外の清掃に努める。
茶は単品でなく配合することが前提のため,異物混入があれば多大な損害を被る。
 異物混入防止対策や降灰対策,農薬の飛散防止対策,生産履歴記帳管理対策(履歴開示は開示請求から5日以内)などを徹底する。「お知らせ旗」の設置に取り組む。