令和5年産 夏茶以降の生産対策

今年の一番茶は,昨年秋の高温により冬芽が大きく,更に,2月~3月にかけて気温が高く推移したことから,早生品種を中心に昨年より3~5日程度早いスタートとなりましたが,4月以降に最低気温が平年を下回る日が多かったことから,急激な芽伸びは見られず,順調な生産となりました。
このような中,芽格を追っての生産や摘採位置を上げての対応など良質茶生産がなされましたが,曇天や降雨の影響で被覆による効果が小さく,やや色のりが悪く,市況は昨年をやや下回って推移しています。
夏茶は良質茶を基本に生産するとともに,来年の一番茶を見据えた樹勢のある茶園づくりに努めてください。
また,荒茶価格はやや回復したものの依然として経営環境は厳しいですので,家族や工場,地域などで今後の方向性について話し合いを進めることも大切です。

◎夏茶生産の留意点

夏茶については,一番茶と比較して価格の幅が小さいことから,生産効率を意識した 製造を行うことが重要です。
特に,天候は燃費効率に大きく影響するため,天気予報をこまめに確認すると共に人 材の管理を適切に行い,雨天時の操業日数を抑えられるような計画的な生産に努める。

1.芽格・色沢・水色の三拍子揃った良質茶生産が基本
(1)大形や白茎の目立つもの,飴色,笹色,かさつき,水色の赤みなどは評価が低い。
(2)欠陥・欠点茶は表1により事前に予防し,万一発生した場合は改善に努める。
(3)ぬれ葉製造においては,生葉の取り扱い,製造工程の各種設定には注意する。

表1 茶市場取引に大きく影響する上場茶の指摘事項の要因と対策
2 蒸熱工程

(1) 硬葉原料は,攪拌軸の回転数を速くし打圧を効かせ,茶葉を柔らかくする。
(2) 夏茶原料は茶葉のpHが一番茶に比べ低い傾向のため,蒸し度を進めると色沢が低下(緑色→褐色)しやすい。このため,蒸し度判定用カラースケールで蒸し度と色沢をチェックしながら,蒸し度判定をする。(図1)。蒸しすぎに注意。

図1 蒸し度判定用カラースケール

3 葉打~乾燥工程
(1) 上乾きしやすい硬葉原料では,茶温を幾分高め,水分の表面への拡散を助けることで色沢が維持される。
(2) 湿度の高い夏茶期は乾燥不足となりやすいので,乾燥程度のチェックを行う。また,過乾燥にも注意する
   (茶をつぶして粉になる,青茎がポキッと折れる,含水率4~5%,水分計を活用)
(3) 乾燥機内の温度が90℃以上で過乾燥(含水率3%以下)となった場合,荒茶色沢 が低下するため,温度は下げ風量を増す。

4 ぬれ葉製造 
(1) 生葉の取り扱い
 ア 付着水が多い場合,脱水機にかけてできるだけ早く蒸す。収葉袋や摘採機などの汚れが混入し,水色が赤みや黒みを帯びやすいので,洗浄脱水が望ましい。
 イ ぬれ葉の状態では,嫌気状態になりやすいため,生葉管理装置には詰め過ぎず,連続送風時間を長くする。
(2) 蒸熱工程
 ア 蒸機へ投入する生葉の乾物重量を揃えることで同程度の蒸熱時間が得られる。この場合,付着水の分(表2)だけ生葉投入量を増やし,蒸気量を増す。 
 イ ぬれ葉は蒸熱後の付着水が多く冷えにくい。冷却不良は色沢の低下をおこすので排蒸ダンパーを開けたり,冷却機周辺の換気を良くする。
 ウ 撹拌軸回転数は遅くし,汁液の出過ぎを防ぐ。
表2 降雨および長時間保管時の生葉重量の目安(晴天葉100)

(3) 葉打工程
 ア 投入乾物量は少なくなるので,付着水の分だけ葉打機への投入量を多めとする。
 イ 初期乾燥でのグシャ揉みは水色の赤みや黒みの原因となるため,付着水がとれるまで最大風量とし,主軸回転数は前工程の10分程度を標準回転数の2割程度少なくし,その後主軸回転数,風量を標準に戻す。
(4) 中揉工程
 ア 外気の影響を最も受けやすい工程であるので,雨の日は風量を増やす。

◎ クリーンな「かごしま茶」づくり

1 異物混入の防止
(1) 異物への消費者の目は厳しい。茶は配合が前提であることから異物混入が発生するとロット全体に影響が出るため細心の注意が必要。
(2) 茶園から茶工場までの異物混入要因のチェック項目を整備し,防止策を徹底する。
(3) 降灰時は茶園や工場で洗浄を行い,「降灰茶は作らない」の基本原則を遵守する。

2 農薬の適正使用の徹底
(1) 農薬飛散防止対策を講ずる
  ア 隣接ほ場の耕作者と収穫時期,農薬散布時期等の情報を連絡し合うなど連携して飛散防止に努める(ほ場に収穫前を示す「お知らせ旗」を掲示する)。
  イ 風向き,風の強弱などに留意し,風の強い日の散布は避ける。
(2) ラベルをしっかり確認し,農薬の使用基準を遵守する。
(3) 農薬散布後は防除機やノズル,ホース等散布器具は十分洗浄する。
(4) 「かごしま茶」の安全性を証明するため,農薬の散布履歴は必ず記帳する。

◎ 茶園管理の留意点

1 適正施肥・適期防除
(1) 施肥設計に基づき,摘採後できるだけ早く施肥する。品質・コスト・環境を考慮。

(2)石灰窒素施用と土壌反転作業による茶の省力肥培管理技術の活用。
 茶園土壌は,管理作業時の土壌踏圧による通気性・透水性の悪化や,整せん枝の繰り返しによる畝間の未分解有機物の堆積により,施肥効率が低下している。対策として,石灰窒素等の施用による腐熟促進及び土壌等の混和が有効である。
 図2は、石灰窒素と土壌反転機を組み合わせた施肥管理法の試験結果を示している。石灰窒素は通常年は秋肥として,加えて更新年では夏肥2回目としても効果がある。土壌反転機は、隔年の秋肥後に実施すると有効である(図3,4)。

 

図2 年間収量と一番茶品質(R1県茶業部普及情報)
図3 土壌反転機(左右同時に反転・混和)
図4 反転・混和後のうね間土壌

(3) 病害虫の発生予察情報やほ場観察,地区防除暦に基づき適期に防除する。
 ア 昨年に引き続き,チャトゲコナジラミの発生量が多く,発生が顕著な場合はすすにより光合成能力の低下を招き,茶樹の生育が妨げられる。
   【防除のポイント】
    ・ 第1世代ふ化幼虫発生期の5月上中旬はクワシロカイガラムシと同時防除
    ・ 第3世代ふ化幼虫発生期の8月中下旬はウンカ,スリップスと同時防除
    ・ 越冬幼虫となる第4世代幼虫発生期の11月上中頃に防除
    ・ 若齢幼虫期散布の効果が高いので,適期散布。シルベストリコバチを有効に活用。

 イ 炭疽病の発生が秋期で多いことから,「やぶきた」など本病に弱い品種の発生に注意する。特に,摘採残葉に発生が多いほ場では,二・三番茶の萌芽~1葉期に防除を行う。
 ウ 網もち病に弱い「あさのか」では,三番茶を7月下旬までに摘採すると,網もち病の感染時期の8月下旬~9月上旬までに秋芽が硬化し,無防除でも感染を低減できる。また,摘採が8月上旬となり,感染時期に秋芽が生育する場合,銅剤により発生を抑制できる(図5)。

図5 二番茶後の整せん枝処理と秋芽生育の関係(R2  県茶業部普及情報)

2 更新技術による樹勢回復
(1) 中切りは一番茶摘採後を基本とし,深刈りは6月15日頃までに行う。
(2) 深刈り後の最終摘採は,最終摘採時期に2節上げて整枝する。但し,整枝時に切断位置が褐色に硬化している場合,その後の秋芽の生育が遅れるので,時期を早めて実施するか,茎が緑の部分に上げて実施するとよい。
(3) 樹勢低下茶園や長期間更新をしていない園では,樹勢回復を目的にしつつも翌年の減収幅を抑えるために,2カ年かけて段階的に二番茶後深刈りを行う。

3 最終摘採時期の遵守(遅れると冬芽形成が遅れ,一番茶は減収する)
(1) 地域の最終摘採時期を基準として,三,四番茶の可否を決める。樹勢も考慮。
(2) ‘ゆたかみどり’など四番茶摘採が難しく秋までの生育期間が長くなる場合
   (例;三番茶が7月10日以降),三番茶を遅らせて上げ摘みするなど調整する。
(3) 最終摘採位置は一節以上は上げて,葉層を確保する(秋芽が伸びる)。

◎ 経営改善に向けた取組

1 経営の現状把握
(1)今年産茶の経営まとめと反省
  ア 今年度の販売額・生産量・単価を茶園ごと,茶期ごと,品種ごと,全体に分けて集計,分析を行う。
  イ 昨年,一昨年(可能なら過去5ヶ年)の分と比較検討してみる。
  ウ 経費の中で,金額の大きい費目は何か。増加・減少している費目は何か。

(2) 損益分岐点の明確化
  ア 損益分岐点は経営が利益が出る(黒字)か損失が出る(赤字)かの境界を表し,自分の経営で必要な売上高等が明確になり,経営判断上の大きな指標になる。
  イ 経費は,固定経費と変動費からなっている。

図6 損益分岐点の概要

  固定経費:売上高とは無関係に一定の経費
  租税公課,農具費,減価償却費等
  変動費:売上高の増加に伴って増える経費
  肥料費,農薬費,動力光熱水費等市販のパソコン簿記ソフトを利用している場合,経営分析,シミュレーション,分岐点分析等の機能を十分に活用する。
※ 農作業事故防止や熱中症対策を徹底し,農作業安全・健康管理に留意しましょう。