夏茶生産対策(平成21年度)

 今年の一番茶の生産は,気温が1月下旬から高めに推移したことから,生育は進みこれまでにない早さでのスタートとなりましたが,3月上旬~4月上旬に低めで推移したため生育は抑制され,平年より5日程度の早さとなりました。一部に低温の影響を受けたものの,産地間・品種間の差はしっかりみられた順調な生産になりました。収量・品質面では,全体的に茶期が早まったことから芽数が少なく収量的にやや少なく,早生品種で低温の影響で茶が硬く,色のり・水色が悪く苦戦したものもみられましたが,天気の回復とともに良品質な生産が行われました。価格的には,早生品種の品質を受けてかなり厳しい価格でのスタートになりました。中でも三拍子揃った良質茶や品種の特徴が十分に発揮できた品種のものは安定した相場展開でしたが,一方大形や色沢,水色が優れない等欠点のあるものは厳しい評価がなされ,慎重な選択買いの中で上下価格は大きく,昨年について経営的にもかなり厳しい年になりました。二番茶以降の夏茶についても苦戦が予想されますが,良質茶生産を第一の基本に据えての生産対応・管理が望まれます。

一番茶生産の反省

1,一番茶の状況
  ・1月下旬から気温が上昇し,休眠期間が短く芽数が少なく収量がやや少ない
  ・3月下旬から気温が低下と曇天により,茶芽の生育が抑制され,品質低下
  ・4月中旬から天気回復し,品質も回復
  ・価格は全体的に低迷し,昨年に続いて経営的に厳しい
  ・地域・茶工場間の品質・価格差が大きい
2,要因
 (1)気象と収量・品質
  ①平均気温 1月下旬~3月中旬 3~5℃前後平年より高く推移
        3月下旬~4月上旬 2~3℃  〃   低く 〃 生育は抑制
  ②降水量 2・3月 平年の1.5倍程度 降水多く,雨天日が多い
  ②茶の収量・品質
    下芽が上がらず,芽数少なく収量はやや少ない
    3月26・27日 県内冷え込み→早生品種を中心に低温の影響
    これにより早生品種は黄化・硬く→かさつき・色乗り悪く・水色青みなし
    4月上旬から天気回復→品質・収量持ち直し
 (2)価格の低迷
  ①序盤は茶期が早過ぎ新茶売り出しムードもなく価格低調
    低温の影響もあり,品質低下もみられた
  ②4月に入り天気回復し品質向上,価格も一時持ち直したが長続きせず低下
    消費地茶商が昨年からの在庫               ―|
        〃    経済の先行きに不安 在庫過多不安 ―|←緑茶消費の減少
    世界的経済不況                               ―|
  ③慎重な選択買いにより上下の価格差は顕著
    芽合・色沢・水色の良いものや品種の特長が発揮できたもの
     新茶売り出し用として引き合いも強く価格維持
    大形・つやなし・水赤等の欠点茶
     昨年と同様厳しい評価品質による価格差は大きかった
 (3)欠陥茶の発生
  煙臭,油臭,乾燥不足による保留が発生 かなり厳しいチェック
  対策を連日呼びかける→心がけ一つで防げること。毎日の気配り・点検が必要
  この厳しい状況の中で欠陥茶はかなりの痛手になる

夏茶生産対策

1.夏茶生産の留意点

(1)良質夏茶の生産が第一の基本
 ①品質・収量を確保した良質茶生産→一番茶に配合可能な品質確保
 ②被覆し,芽格・色沢・水色 三拍子揃った夏茶生産を。
 ③市場状況を十分把握しながらの柔軟な対応
(2)欠陥・欠点茶を作らない 気温・湿度ともに高い時期,特に梅雨時期も挟む。生葉管理の徹底,摘採から製造をスムーズに行う。最近,特に指摘が厳しくなっている。
 ①水色の赤みの改善
   水色の赤みは価格への影響が大きい。生葉管理,茶工場の機械洗浄等の徹底
 ②乾燥を十分に。特に梅雨時期は注意し,頭などの出物は再度乾燥
 ③煙臭等出さぬよう火炉内の茶粉をこまめに掃除を。特に中揉機の火炉には注意
(3)園相づくりを考えた葉層の確保
 ①樹勢の強い揃った秋芽を作るためには,一節上げて葉層の確保を
 ②最終摘採日を厳守し,来年の一番茶の芽数・芽重を確保するための園づくりも考慮
 ③病害虫防除を適期に行い,樹勢の確保を
(4)経営面での中間反省を今年の一番茶は,昨年に引き続きかなり厳しい状況である。一番茶終了時点で一番茶の反省と夏茶の対応を具体的に検討する必要がある。 
①一番茶の結果を踏まえ,年間販売金額がほぼ想定できる。
 資金繰り,夏茶対策の計画を綿密に立てて,早めの対応をしていく必要
②コスト面を考えた茶業経営
 生産資材等の高騰→製造加工や摘採・管理(肥料・農薬等)
 効率的,合理的な機械利用や管理作業の段取り
 防除・施肥等経済的許容基準以内での生産・管理

2.これからの夏茶管理

(1)二回整枝の実施
品質確保の面からは重要な作業。特に今年は芽つぶれ・霜害を受けた茶園では特に注意
①二回施肥の時期(平年の場合)
  一番茶摘採後 第一回目 0~5日目 第二回目 17~22日目
  二番茶摘採後   〃  0~5日目   〃  約16日目
②留意点
 ・乗用型で摘採した場合,摘採を一回目整枝(0日目実施)とみなせる。
  二回整枝では萌芽してくる芽を切らないように整枝の高さには十分注意する。
 ・気温が上がると,各茶期間の日数は短縮されるので注意する。
(2)施肥
 ・各地区の施肥設計に基づいて,摘採後できるだけ早く施肥する
 ・環境・コストに配慮した施肥が求められているので,適正施肥に努める。
(3)病害虫防除
 ・各地区の防除暦に基づいて適期防除に努める。
 ・安全使用期間の厳守→使用期間に十分注意して,確認の上防除する。
 ・ハダニの防除→多発茶園では,一番茶後防除を行い,密度低下を
 ・クワシロカイガラムシは発生孵化時期を確実に把握してから防除する。
   昨年秋高温で第四世代まで孵化した所も多く,今年の発生時期は不揃い
   茶園ごとに発生時期が異なるので,技連会の発生情報を十分参考にし,園ごと確認
 ・ポジティブリスト制度の中で,農薬の飛散防止には十分注意する。
 ・農薬散布の際は体調管理や作業服装に注意し,高温時の散布はしない。
(4)被覆による品質向上 良質茶生産の基本
 ・日数 4~5日 (直接被覆)樹勢の弱い園では被覆は行わない。
 ・被覆の開始時期を間違わないように(摘採遅れはかえってマイナス)
 ・二番茶(梅雨時期)期は,高温多湿になるため黒葉腐れ病の発生に注意する。
 ・被覆資材はきつく確実に止め,強風による葉ずれ防止に努める。
(5)摘 採
 ・適期摘採で良質生葉の確保 早く硬葉になりやすく,摘採適期が短いので注意する。
    二番茶は梅雨時期と重なるので摘採遅れにならないように注意する。
 ・摘採機の摘採スピードと回転数の調整及び刃の調整 2度切りやささくれ→水赤原因
 ・計画摘採と適切な生葉管理で鮮度保持
    生葉摘採袋に多くの生葉を詰め込み過ぎない。
    運搬の際は生葉袋の重ね積みをせず,直射日光を防ぐため幌や遮光シートで断熱。葉傷みは水色が赤くなり,品質低下が著しい。
(6)中切り更新による樹勢回復 摘採面が高くなった園 親葉が小さく樹勢の弱い園
 ・時期 できるだけ早い一番茶後(4月中)が望ましいが,5月上旬になる場合は5月中,下旬に行い,第一回目を7月下旬とする。
 ・中切り後の整剪枝
    第1回目  中切りより55~60日目頃   中切り位置より  3㎝上げて
    第2回目  7月下旬~8月上旬       前回より     3~4㎝上げて
    秋整枝   10月上中旬           前回より     4~5㎝上げて
 ・二番茶まで摘採する場合は,摘採直後深刈りし,第一回目を7月下旬~8月上旬
 ・中切り後の萌芽から生育初期を重点に,ウンカ・スリップス・炭疽病等早めの防除
 ・中切りした年は断根を伴う強い深耕はしない。
(7)台風対策 
・新植園など幼木園は台風襲来に備え,ソルゴーの間作など防風対策を計画的に実施・茶工場や防霜ファン等の施設被害の防止

3.夏茶製造のポイント

(1)一般的製造
 ①蒸 熱 生葉形質を考慮して蒸す。
  ・夏茶は組織が硬く,大形,色沢の黒みになりやすい(一番茶より5秒程度長く)。
  ・蒸機の胴回転数は一番茶より遅く(5回程度),逆に攪拌軸は早く(50回)。
  ・蒸熱の後に蒸葉処理機を設置した工場では,熱風温度に注意する。
   熱風温度が高すぎると葉緑素の熱変成が起き,色を悪くする。②粗 揉
  ・茶温は35~36℃が適当
  ・揉み手バネ圧・・・一番茶より0.5kg程度強める。
  ・熱風温度,風量に十分注意する。晴天日には少なく,雨天日には多めとする。
 ③揉 捻
  ・一番茶に比べ,原料が硬くなっているので,加重をかけ十分揉み込む。
   ただし,一番茶並に時間をかけると水赤になったり苦渋味が強くなるので注意。
 ④中 揉
  ・茶温は36℃が適当
  ・バネ圧,回転・・・夏茶は容積重が軽いのでバネ圧は一番茶より弱く,回転は遅く。
  ・排気温度,風量に十分注意し,上乾きをさせない。中揉機は外気の影響を受けやすいので給気湿度に応じ,晴天時には風量は少なく雨天時には多めとする。
 ⑤精 揉
  ・茶温(投入10分後)は,43℃程度が適当
  ・温度を上げて無理に能率を上げると,「むれ」「色沢の褐変」が生じ,品質低下。
 ⑥乾 燥
  ・乾燥時間は長く,十分に
  ・乾燥不足の指摘が多い。頭などの出物は必ず再乾燥を。
  ・精揉の早出し,深蒸し茶は乾燥不足になりやすい。
  ・風量は一番茶に比べて多めとする。
(2)濡れ葉製造の留意点夏茶,特に二番茶は梅雨時期と重なり,濡れ葉での製造の機会も多くなる。
無理して濡れ葉で製造する必要はないが,やむを得ない場合は次の点に留意して製造する。
 ①生葉取り扱い
  ・付着水が多い場合には,脱水機にかけてできるだけ早く蒸す。
  ・生葉管理装置には詰め過ぎない。濡れ葉の状態では,嫌気状態になり異臭
   (ギャバロン臭)が発生する。連続送風時間を長くする。
 ②蒸 熱
  ・濡れ葉は蒸機への投入量を付着水分に応じ調整する。重量換算で付着水の
   分だけ投入量を増やし,投入量の増加分だけ蒸気量を増やす。
 ③葉打・粗揉
  ・葉打機の熱風発生機に余裕があれば,投入量を付着水の分だけ増やす。
  ・付着水が取れるまでは最大風量とする。
  ・空気湿度が高まる時期は全体に茶温が高くなりやすい。
   茶温に注意し,熱風温度を上げずに風量を増やす必要がある。
 ④中 揉
  ・外気の影響を最も受けやすい工程であるので,雨の日は風量を増やす必要がある。
 ⑤乾 燥
  ・雨の日は乾燥不足になりやすいので,風量,温度,乾燥時間を増やす。
(3)欠点茶,欠陥茶を製造しない
 ①水色が赤い
  ・原因・・・ア,病害虫の発生が多い
        イ,摘採機の刃が切れない 二度切りしている
        ウ,直射日光や袋への詰め込み過ぎ
        エ,摘採から製造まで時間がかかる
        オ,製造中の高温(粗揉,中揉,精揉,乾燥)
        カ,茶工場の掃除不足
 ②煙 臭
  ・中揉,精揉,乾燥機の火炉の掃除はこまめに一日数回 粗揉機も忘れず
    茶粉はコンプレッサーで吹き飛ばさず,掃除機で吸引する
 ③乾燥不足
  ・茶市場で最も指摘が多い。乾燥は十分時間をかけて
  ・頭等の出物は必ず二度乾燥をする
  ・梱包・出荷時は乾燥程度を必ず確認 太めの茶を指で潰して楽に粉になる程度
 ④異物混入防止
  ・茶園での落ち葉、杉の葉,雑草等は摘採前に必ず除去する。
  ・茶工場の生葉搬入口や窓には防虫用ネットを設置する。
  ・磁石は乾燥機の出口から袋詰めまでの間に2ヶ所以上設置し,毎日掃除を
  ・乾燥した荒茶は必ず篩分機を通し,頭等の出物は目視で異物を取り除く。
  ・桜島降灰は茶宴で摘採前に洗浄し,茶工場でも完全に洗浄して製造する。
(4)摘採・製造中の事故防止の徹底
 ①摘採機の運搬は道路交通法・道路運送車両法に準拠したトレーラーやトラックを利用
 ②梅雨期は茶園の土手の地盤が緩みやすいので十分注意
 ③茶工場では作業に適した服装とし,機械への巻き込み事故等は注意

GAP手法の実践と生産履歴の記帳管理

昨年3月から「かごしま茶生産工程管理(かごしま茶基礎GAP)」がスタートした。
一番茶の生産工程を反省・評価し,チェック表の記帳・確認を茶工場ごとに行い、その改善を二番茶に生かしていこう。
生産履歴も昨年3万件を越える開示請求があり,今年も昨年を上回る件数が予想される。今後更に生産履歴の記帳管理を徹底し,開示請求に迅速に対応する。
(1)GAPの一番茶チェックと反省・改善を確実に
 ① 茶工場ごとに一番茶の生産管理をチェックする。
 ②うまく実践できなかった項目は なぜできなかったか 二番茶はどうするかを確実に反省・評価・改善する。
(2)GAPの確立体制の整備を市町茶業振興会で確立する。
(3)開示請求に迅速な対応を
 ① 昨年,請求から開示報告までに平均10日かかっている。この日数の短縮が更に強く求められている。
   請求から報告まで4日以内に出来るよう,茶工場毎に確実に準備する。