夏茶生産対策(平成22年度)

 前年産茶が昭和50年代初期の相場で終えたことに加え,春先に県内各地で凍霜害を受けるなど不安材料の多い中で開始された一番茶取引は,
1.年度末の在庫調整がやや進んだこと,
2.県外主産地が大規模な凍霜害を受け生産が減少・遅延していること,
3.鹿児島県のすすめる多品種の特徴が生かされたこと
等から,底堅い相場となりました。しかし,下級茶については昨年同様厳しい評価となったことや,桜島降灰への対応など課題も残されており,二番茶以降も良質茶生産に向けて,しっかりとした対応が求められています。

夏茶の収益性

 荒茶価格の低迷で,夏茶の収益割合は低下している印象があります。しかし,最近5ヶ年の粗収益と10年前とを比較すると,図1に示すとおり全体の粗収益は30%程度下落していますが,茶期毎の収益割合にほとんど変化はありません。価格に関わらず,夏茶の経営内での重要性は変わりませんので,確実な対策が必要です。

一番茶後の茶園管理

 一般に,一番茶が良かった年は二番茶も安定するといわれますが,一番茶と同様に製品による価格差は大きいことが予想されています。的確な管理で,納得のいく製品作りを行ってください。

 凍霜害を受けた茶園の管理凍霜害を受けた茶園は,二番茶も不揃いとなる傾向にあります。一番茶摘採後に2回整枝を行えば品質はかなり改善しますので,表1を参考に実施してください。

 施肥管理最近,施肥量を増やす事例が散見されます。夏場は降雨により肥料成分の溶脱も多いことから,天候と茶芽の状態を重視し基準は守りましょう。

 病害虫防除適期防除と安全使用期間の遵守,飛散防止対策は当然実施すべき事項です。加えて,最近報告されている以下の情報に留意して防除して下さい。

(1)チャノミドリヒメヨコバイに対する防除効果の低下
 表記害虫は,被害程度が収量に影響するため的確な防除が必要ですが,薬剤によっては効果がほとんどないものが報告されているため,剤の選定には注意が必要です。

(2)輪班病に対するストロビルリン系薬剤の防除効果の低下

(3)散水によるクワシロカイガラムシ防除
 難防除害虫のクワシロカイガラムシについては,産卵期からふ化期に茶園の枝条部を多湿状態にすることで防除できます。多くの利点がありますので,かん水施設があるほ場では是非実施してください。

【具体的な防除方法】
・散水期間:ふ化開始時期から連続10日程度
・散水時期:昼間10時間程度(夜間は乾燥が進まないため不要)
・散水方法:10分散水20分休止の1/3間断

夏茶生産対策

 被覆技術被覆は品質向上や摘採期の調整に有効ですが,一部作業の機械化ができていないため資材の設置と除去に大きなコストを要します。近年,製造前日の夕刻に除去し,翌朝製造する場合には被覆効果の低下は小さいという試験報告があるので,労力の分散や工場の操業に応じた作業体系の構築に活用して下さい。ただし,日中の除去時間が長くなると品質は劣るので注意が必要です。

 異物混入防止対策

【基本的な考え方】
 消費者の食品衛生管理に対する要望は年々高くなっています。異物除去は販売者だけの問題ではなく,ほ場から店先まで生産に関わる全工程での管理が重要です。製造後の異物除去は,かなりの時間とコストを要するため,ほ場での落葉・雑草等の除去,資材等の混入防止に努めてください。また,製茶工場においては,関係者に「製茶工場=食品加工場」であることの周知を常に行い,適切な服装や整理・整頓の励行など,食品衛生管理面の教育を徹底する必要があります。

【桜島降灰対策】
 昨今の激しい降灰の影響で,県茶市場に上場された一番茶に僅かな降灰の混入が確認され,返品となった事例が見受けられました。県では,降灰茶の3原則「作らない・売らない・買わない」を掲げ,食品の安心・安全を徹底している中,夏茶生産においても十分な対策が必要です。桜島はおおむね200年に一度大噴火,約30年ごとにその1/10程度の噴火を繰り返すとされ,今後数年で活動が停滞する可能性は低いようです。特に,今年は噴火の頻度が高く付着量も多いことから,これまで降灰の少なかった地域も混入の可能性があることや,降雨後などほ場で確認できない場合でも,製品に混入している場合があることを理解して,生産を進める必要があります。

(ア)生葉での火山灰付着状況の確認方法

①生葉15g以上を計量する(多めに)
②白色系で少し大きめの容器に水と茶芽を入れよく洗う
③茶芽を取り出し,残った切れ葉等をすくい網できれいに除去する
④水をスプーンで回転させるように攪拌し,中央に集まった火山灰を確認する
⑤脱水葉は定期的に確認し,降灰の付着が確認された場合は再度洗浄を行う

(イ)ほ場での除去対策

①摘採前洗浄機の利用(被覆前と被覆資材除去後摘採前に2回処理。水量を多くし,除去できない場合は処理回数を増やす。)
②スプリンクラーの利用(被覆前と摘採前に2回,一昼夜以上散水)
③摘採位置を上げる(下葉に付着が多い)
④被覆資材をよく洗浄する
⑤摘採機の旋回時ファンを止める

(ウ)工場での除去対策

①工場内に灰が入らないようにする
②洗浄機の水量を増やす
③付着量に応じて投入量と浸漬時間を調整する
④水槽の水の交換頻度を高める
⑤水槽のフィルタはこまめに掃除する
⑥シャワーノズルの向きの調整
⑦脱水機への投入前に簡易シャワーを増設

(エ)その他

①ほ場と工場の両方で火山灰の付着を確認する
②なるべくほ場と工場の両方で洗浄を実施する
③洗浄後も付着状況を再度確認する
④刈り番茶は付着量が多い傾向があるため,より注意を要する
降灰混入防止は,生産から流通・消費まで,県産茶を扱う業界全体にかかる重大な課題です。既存技術を組合わせ,最善の除去努力をお願いします。

 摘採と生葉管理適期摘採が良質茶の第一歩です。夏茶は生育が早く,工場操業計画を初期段階で間違うと茶期全体に影響するので,一番良い時期に摘採できるよう綿密な計画を立てることが大切です。また,夏茶の品質低下の主な要因は生葉管理にあります。夏場は温度が高く原葉が傷みやすいため,摘採後の取り扱いに十分な注意が必要です。この段階で品質低下を来すと,その後のいかなる処理でも回復させることはできないので,周知を徹底してください。

 製造最近の製茶機械は,制御装置の性能向上である程度の技術があれば一定品質の製品を作れるようになりました。しかし,さらに技術を加えることで歩留まりの低下や燃料費を抑えることができます。可能な技術は実践して,生産効率を高めましょう。

(1)製造にかかる熱量を理解する
 製茶工程では,多くの熱エネルギーを使用して製造を行っていますが,実際に使用されている有効熱量はその3分の1程度にすぎません。特に,蒸熱から粗揉までの工程で8割以上の熱量が使われていることから,空運転を無くすなど効率的な生産を行うことが重要です。

(2)蒸熱
 蒸し機の投入口から多くの蒸気が出ている工場が散見されます。これはほとんど余剰熱で,燃料の無駄となります。蒸気流量が下がらない場合は,ボイラーのメインノズルを小さくするなどの調整を行ってください。また,冷却工程で付着水の除去率が大きいほど,後工程での製造コストを抑えることができます。網目の目詰まり除去など,基本的なメンテナンスを怠らないよう実施しましょう。
(3)葉打機内の茶葉付着を軽減する技術
 製造終了後,葉打ち機内に多量の茶葉が付着し「もったいない」と感じる方は多いと思います。これまで,乾燥効率を考えて回転数は前半を早め後半を遅めに設定していましたが,表3に示すように前半の主軸回転数を遅く,後半を早く設定することで,付着量を少なくすることができます。

(4)濡れ葉の製造
 生育状況や工場の操業の関係で,やむを得ず雨天時に摘採・製造を行う場合があり ます。雨天時の製品は品質が劣ることに加え,製造コストも通常より約10%多くかかるため,現在の市場価格の状況で,濡れ葉の状態で製造することは得策ではありません。雨天が確実な場合は,これまで以上に前日の操業時間を拡大したり,置き葉をするなど,さらに大胆な操業計画の変更が必要と思われます。
 一番茶は,堅調な相場で推移し一息ついた状況となりましたが,他産地の状況によるものが大きく根本的な改善とはなっていません。全国的に生産が安定する二番茶以降は,依然厳しい状況が予想されるため,基本技術をしっかりと励行することが大切です。コスト競争力が高く,最新の技術に即応できる鹿児島県茶業の特徴を発揮させるため,自信を持って「カイゼン」を進めましょう。