令和元年度 夏茶生産対策

はじめに

 今年の一番茶は,3月上旬の気温は高く推移したものの,それ以降は平年並の気温となり,比較的順調な生産となりました。このような中,芽格の良い製品も生産されましたが,全般に品質などによる価格差の大きい相場展開となりました。
 夏茶は良質茶生産を行うとともに,来年の一番茶を見据えた樹勢のある茶園づくりに努めましょう。

夏茶生産対策

1 夏茶生産の留意点

(1)芽格・色沢・水色の三拍子揃った良質茶生産が基本
   大形や白茎の目立つもの,飴色,笹色,かさつき,水色の赤みなどは評価が低い。

(2)煙臭・油臭改善(一番茶で発生が多かった)

ア 煙臭

  1. 中揉機や乾燥機などで,掃除が不十分で残ってしまった火炉中の茶ほこりが燃えて,その煙の臭いが茶につくので,掃除をしっかり行う。
  2. 操業中に火炉付近の掃除をする場合,掃除機を使用するなど茶ほこりが舞い上がらないように注意する。

イ 油臭

  1. 製茶機械に注油したもの(無臭性製品も過信しない)や重油火炉の煙管破損による燃焼ガスの臭いなどが茶につくので,火炉の点検・清掃を行う。
  2. 茶園機械のオイル漏れや搬送トラックの床の油汚れなどにも注意する。

(3)水色の赤み改善

ア 夏茶にはタンニン(カテキン)が多く含まれ,タンニンが多いと水色が赤みを帯びる傾向がある(図1)。

イ 生葉に傷をつけない(傷口が空気に触れ酸化してカテキンが赤くなる)

  1. 摘採機の刈刃を研ぎ,すり合わせ,すき間を調整する(切り口をチェック)。
  2. 摘採は切れ葉ができるだけ少なくなるように丁寧に行う(エンジン回転数,表1)

ウ 生葉の温度を下げる(呼吸による葉温の上昇は水赤など品質低下を助長する)

  1. 摘採袋への詰め込み過ぎに注意し,なるべく日陰に置き,こまめに茶工場へ搬入する(夏茶は硬化が早く短期集中になるので,計画摘採を)。

エ 保管時間をできるだけ短くする(摘採直後から品質低下は始まる,表1)。

オ 水色の赤みは葉傷みの他に,機械の汚れやチャノホソガ(虫糞),チャノミドリヒメヨコバイなどの病害虫被害の影響も受ける。

図1 上場茶の水色評点とタンニン含量
注)データはそれぞれの茶期で30点満点
表1 香気の葉傷み程度と水色評点

3.試験区は摘採機のエンジン回転数と生葉保管時間

(4)蒸熱

  • 硬葉原料は,攪拌軸の回転数を速くし打圧を効かせ,茶葉を柔らかくする。
  • 夏茶原料は茶葉のpHが一番茶に比べ低いため,原料の質以上の蒸しや極端な能率重視は,熱変成による色沢低下(クロロフィル(Chl)のフェオフィチン(Phy)化,緑色→黄色→褐色)を起こす(図2)。
  • 色沢を重視するため若蒸しとする場合,蒸気量を下げすぎると蒸し不足となり,水色が赤みを帯びることもあるので注意する
図2 荒茶のpHとChlのPhyへの変化率
注)Y1:やぶきた一茶,S1:さえみどり一茶
  Y2:ぶきた二茶,S2:さえみどり二茶

(5)葉打~乾燥

  • 夏茶製造用の設定へ調整する(粗揉もみ手バネ圧を強め,葉浚い間隔を広める)。
  • 上乾きしやすい硬葉原料では,茶温をやや高め,水分の表面への拡散を助けることで色沢が維持される。
  • 精揉機での取り出し程度や乾燥後の品質管理(長時間放置しない)も注意し,出物(頭等)は再乾燥して出荷する。
  • 乾燥機内の温度が90℃以上で過乾燥(含水率3%以下)となった場合,荒茶色沢が低下するため,温度を下げ風量を増加するか,時間を長くする。
  • 湿度の高い夏茶期は乾燥不足となりやすいので,乾燥程度のチェックを行う。(茶をつぶして粉になる,青茎がポキッと折れる,含水率4~5%,水分計活用)

(6)ぬれ葉製造

ア 生葉の取り扱い

  1. 付着水が多い場合,脱水機にかけてできるだけ早く蒸す。収葉袋や摘採機などの汚れが混入し,水色が赤みや黒みを帯びやすいので,洗浄脱水が望ましい。
  2. ぬれ葉の状態では,嫌気状態になり異臭(ギャバロン臭)が発生するため,生葉管理装置には詰め過ぎず,連続送風時間を長くする。

イ 蒸熱

  1. 水は比熱が大きい(温まりにくくて,冷めにくい)ため,蒸気量は付着水に応じて多く(脱水葉は1割増し(表2),蒸機給葉口から蒸気が漏れる程度)し,蒸熱時間は短く(胴傾斜を調整)する。
    また,蒸機へ投入する生葉の乾物重量を揃えることで同程度の蒸熱時間が得られる。この場合,付着水の分だけ生葉投入量を増やし,増加分だけ蒸気量を増す。
  2. 冷却不良は,色沢の低下をおこすので注意する(排蒸ダンパーを開ける,換気)。
  3. 撹拌軸回転数は遅くし,汁液の出過ぎを防ぐ。
表2 降雨および長時間保管時の生葉重量の目安(晴天葉100)

ウ 葉打

  1. 投入乾物量は少なくなるので,付着水の分だけ葉打機への投入量を多めとする。
  2. 初期乾燥でのグシャ揉みは水色の赤みや黒みの原因となるため,付着水がとれるまで最大風量とし,主軸回転数は前工程の10分程度を標準回転数の2割程度少なくし,その後主軸回転数,風量を標準に戻す。

エ 中揉

  1. 外気の影響を最も受けやすい工程であるので,雨の日は風量を増やす。

オ 乾燥

  1. 1(5)ウエオを参照する。

(7) 異物混入を防止する(茶は配合が前提,異物への消費者の目は厳しい,図3,4)

(8) 降灰茶は「つくらない,売らない,買わない」の三原則を遵守(灰確認,図3)

図3 異物混入苦情件数と降灰による非上場茶件数
図4 異物混入の内容別発生状況

2 農薬適正使用徹底について

(1)農薬飛散防止対策を講ずる

  • 隣接ほ場の耕作者と収穫時期,農薬散布時期等の情報を連絡し合うなど連携して飛散防止に努める(ほ場に収穫前を示す旗を掲示する取組)。
  • 風向き,風の強弱などに留意し,風の強い日の散布は避ける。

(2)ラベルをしっかり確認し,農薬の使用基準を遵守する。

(3)農薬散布後は防除機やノズル,ホース等散布器具は十分洗浄する。 (4)「かごしま茶」の安全性を証明するため,農薬の散布履歴は必ず記帳する。

3 茶園管理

(1)整枝について

  • 摘採後の整枝を摘採位置より下げて行う場合は,時期が遅くなると次茶期の収量,品質が低下するので注意する(遅れた場合は摘採位置より下げない)。

(2)適正施肥・適期防除

  • 施肥設計に基づき,摘採後できるだけ早く施肥する(コスト,品質,環境を考慮)。
  • 病害虫の発生予察情報とほ場観察,各地区の防除暦に基づき適期に防除する。
  •  (ウ,エ:平成30年度普及情報)
  • 秋芽生育期に残効性の高い予防剤と治療効果に優れるEBI剤を混用して2~4葉期に1回散布することで,炭疽病等の主要病害を効果的に防除することができる。
  • 年間施肥体系(秋肥や二番茶更新後)に石灰窒素を活用することで,土壌改良 効果(土壌pHの矯正など)が得られ,収量・品質が向上し,肥料費も軽減される。

(3)更新技術による樹勢回復

  • 中切りは一番茶摘採後を基本とし,深刈りは6月15日頃までに行う。
  • 深刈り後の最終摘採は,最終摘採時期に2節上げて整枝する。但し,整枝時に切 断位置が褐色に硬化している場合,その後の秋芽の生育が遅れるので,時期を早めて実施するか,茎が緑の部分に上げて実施するとよい。
  • 樹勢低下茶園や長期間更新をしていない園では,樹勢回復を目的にしつつも翌年の減収幅を抑えるために,2カ年かけて段階的に二番茶後深刈りを行う。1年目は前回位置から上げて浅めに深刈りし,翌年は前回更新付近から下げて深刈りする。

(4)最終摘採時期の遵守(遅れると冬芽形成が遅れ(図5),一番茶は減収する)

  • 地域の最終摘採時期を基準として,三,四番茶の可否を決める。樹勢も考慮。
  • ‘ゆたかみどり’など秋までの生育期間が長くなる場合(例;三番茶が7月10日以降),三番茶を遅らせて上げ摘みするなど調整する(図6)。
  • 最終摘採位置は一節は上げて,葉層を確保する(秋芽が伸びる)。
図6 有効積算温度と一番茶収量
早:7/22(18),中:8/5(1),遅:8/25(21)()はゆたかみどり幼葉数は鱗片葉含む(一般的に4葉ほど離脱する)
図5 最終摘採日別の冬芽(頂芽)の幼葉数
(ゆたかみどり)

◇ ‘ちゃぴおんねっとシステム’の活用と生産履歴の速やかな報告(開示5日以内)
◇ 農薬のドリフト・コンタミ防止を徹底し,有機栽培茶は茶園の団地化に取り組む
◇ 農作業事故防止と健康管理に留意する。
◇ 経営の現状・課題・方向性等を家族,会社,地域等で話し合い,共有化する。