茶生産コスト低減対策

Ⅰ 生葉生産対策

1 茶園管理の効率化
 ① 茶園管理を行う家族全員,従業員が作業の段取りと内容を十分理解しておくことが必要であり,
  朝礼等での打合せを十分に行う。
 ② 一茶園での複数管理作業が同時にすませられるよう,作業計画を事前に作成しておく。
 ③ 長期的な効率化のためには,茶園の集団化,団地化が必要になる。

2 経費削減対策
(1)共通事項
 ① 肥料・農薬や資材等購入の際には,予約注文や共同購入に努める。
 ② 茶園での乗用型管理機械・資材等は,耐用年数を超えて使用できるよう
  日頃からの整備・管理に努める。
(2)肥料費
 ① 土壌分析に基づいた施肥を行い,過剰施肥は行わない。また,土壌分析に基づいた
  石灰資材等(苦土石灰や石灰窒素,採卵鶏糞)による酸度矯正に努め,肥料利用率の
  向上を図る。
 ② 成分・肥効を考慮し,安価で肥効の変わらないものを選択する。
 ③ 堆肥・粗大有機物等で代替できる分は,代替利用を行う。低コストの堆肥入り配
  合肥料等を活用する(6ページ参照)。 

【参考情報】 低コストに寄与する普及技術(№1)
1 茶園における採卵鶏ふん堆肥を活用した低コスト施肥体系(H29)
2 茶園の年間施肥体系における石灰窒素の活用(H30)
3 石灰窒素施用と土壌反転作業の組合せによる茶の省力肥培管理技術(R1)
4 有機資材の窒素無機化特性を考慮した有機栽培「ゆたかみどり」の秋肥重点施肥(R2)
 
情報1
情報2
情報3

情報4

(3)農薬費
 ① 病害虫発生予察に基づいて茶園での確認を行い,適期防除や必要最小限の散布回
  数に努める。
 ② 薬剤の選択に当たっては,薬剤の効果,価格,同一系統の薬剤散布回数等を十分
  考慮する。
 ③ 病害虫抵抗性品種の導入や,土着天敵の保護活用,水利用による物理的防除,剪
  枝による耕種的防除,少量農薬散布機などを積極的に取り入れる。

【参考情報】 低コストに寄与する普及技術(№2)
5 チャトゲコナジラミの天敵シルベストリコバチの早期定着を図る放飼地点間隔(H30)
6 夜間間断散水によるチャノホソガの三角巻葉の発生抑制効果(H28)
7 有機栽培「あさのか」の網もち病の発生低減技術(R2)
8 農薬散布量を従来より大幅に削減できる「かごしま式防除装置」の開発(H27)
情報5
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情報7
情報8

(4)動力光熱水費
 ① 大型茶園管理機は,適正な回転数,スピードで作業を行い,エンジンオイル,
  フィルターは適正に管理する。
(5)経費削減の留意点
 ① 経費削減する余り,茶園管理や製造が手抜きとなったり,疎かになっては元も
  子もなくなる。経費節減は度が過ぎるとマイナス面も合わせ持つことになるので
  収量・品質を確認する適期管理が大前提となる。

Ⅱ 荒茶加工対策

1 工場運営の合理化
(1) 製茶工場の生産効率を高める
 ① 工場の生葉処理能力に見合った生葉を計画的に集荷し,空運転のないように
  連続的にフル操業することにより,工場の稼働率の向上を図る。

 ② 工場の生葉処理能力に見合った系列農家の計画摘採を行う。
 ③ 品種構成やほ場間の芽の伸長度に応じた摘採により,1日当たり平均生葉集荷
  量を多くし,過重労働にならない範囲において操業時間を長くし,燃料の利用効率
  を高める。
   夏茶や秋冬番茶の製造は,燃料事情,特に燃料単価,生産コスト等を考慮し,
  その加工の可否をよく検討し,大型工場等への生葉集約を行う体制を地域や振興
  会等で検討する。

【参考】
 過去に行われた年間の燃料消費量の実態調査では,荒茶1kg当たりA重油で1.24
±0.37L,LPガス0.11±0.05kgで,工場間の変異が大きく認められている。
 また,機械規模別には60k型工場と120k型工場では60k型工場のA重油消費量
の多い傾向が認められている。
 てん茶製造において,近年導入が進む新てん茶ライン(ネット型乾燥機)の荒茶1kg
当たりの重油消費量は2.0~2.2Lで,重油消費量を従来のてん茶製造の3.5Lに比
べて約40%削減可能である。
【参考情報】 低コストに寄与する普及技術(№3)
9 炒蒸機とネット型乾燥機を用いた加工用てん茶の低コスト製造法(H27)

(2) 工場管理の適正化を図る
 ① 工場管理者は燃料の節約と合理的な運営を図るため,予め作業者と作業手順や
  段取りについて打ち合わせを行う。
 ② 各種作業状況を常に把握し,空運転を省くなど効率的な製造に努める。
 ③ 工場管理者は,現状における工場の実勢数値を十分把握し,工場の生産性を上げ
  るために必要な数値目標を明確にし,その目標の達成に努力する。

 (例)工場の稼働率の現状80%を目標85%にする。
    秋冬番茶のA重油消費量の現状1.0㍑/荒茶1kgを目標0.8㍑にする。

2 製造における具体的な対策
 ① 適正な製茶条件や適切な作業計画により,極力無駄をなくすように心掛ける。
  特に空運転時の熱はほとんど無駄に消費されるので,空運転の短縮に努める。
 ② 燃料の不完全燃焼は,発生する熱量が著しく低下するので適正な燃焼装置の点
  検整備に心掛ける。燃焼状態は炎や煙突からの排煙の状態で大方は判断でき
  るので,燃焼装置のノズルやフィルターの掃除をこまめに行い,不完全燃焼の
  ないようにする。
 ③ 蒸熱においては,蒸機への安定した生葉投入量と蒸熱に必要な無駄のない蒸気
  量を供給する。
 ④ 雨天時の製造はなるべく避ける。やむなく濡れ葉を製造する場合は,脱水を
  しっかり行う。
 ⑤ 茶工場内の不要な電灯等はこまめに消灯する。
 ⑥ 製茶機械は標準使用基準に準拠して調整する。
 ⑦ 機械を水洗いして掃除した後は,機械に残った水は十分に拭き取った後乾燥する。

Ⅲ 経営改善対策

1 経営の現状把握
(1)今年産茶の経営まとめと反省
 ① 今年度の販売額・生産量・単価を茶園ごと,茶期ごと,品種ごと,全体に分け
  て集計,分析を行う。
 ② 昨年,一昨年(可能なら過去5ヶ年)の分と比較検討してみる。
 ③ 経費の中で,金額の大きい費目は何か。
 ④ 過年度に比べ,増加・減少している費目は何か。
(2) 損益分岐点の明確化
 ① 損益分岐点は経営が利益が出る(黒字)か損失が出る(赤字)かの境界を表し,
  自分の経営で必要な売上高等が明確になり,経営判断上の大きな指標になる。
 ② 経費は,固定経費と変動費からなっている。
  固定経費:売上高とは無関係な一定の経費 租税公課,農具費,減価償却費等
  変動費:売上高の増加に伴って増える経費 肥料費,農薬費,動力光熱水費等
  市販のパソコン簿記ソフトを利用している場合,経営分析,シミュレーション,
  分岐点分析等の機能を十分に活用する。

(3)生産原価を知る
 ① 生葉生産の原価 生葉1kg生産するのに必要な経費
   荒茶製造の原価 荒茶1kg製造するのに必要な経費 を各自が把握に努める。
 ② 生葉,荒茶の生産原価と指標値を比較し,具体的な経費削減を図る。
 ③ 荒茶単価の下落時や三番茶,秋冬番茶生産の際に,製造可否の判断材料として
  活用する。
2 経営改善計画の見直し
(1) 経営改善計画の荒茶単価や燃料費,肥料費等経費の見直しを行い,現状に
  当てはめた計画を作成する。
(2) 茶業経営及び生活の維持に必要な金額を試算してみる。
(3) 農家余剰金の試算計画から経費をどう節減するのか等の具体的対応策を
  検討し,実現可能で具体的な短期・長期計画を作成する。

3 具体的対策の実施
(1) 金融対策
 ① 資金繰りの対策が必要な場合,早い機会に関係機関や金融機関に相談をする。
 ② 短期資金,長期資金,返済計画等についてシミュレーションを行う。
(2) 販売金額の増加対策
 ① 品質を落とさずに収量を増加させる対策
 ② 品質の改善,市場の要求に応じた特徴ある茶づくりによる単価向上
(3) 生活費低減対策
 ① 生活費の無駄を省き,経費節減に努める。
 ② 子供の教育費や就職・結婚,マイカーの購入,住宅の新築など特別に発生する
  出費について想定出来るものは,必ず上記の出費計画に上げて前もって資金対策
  を立てておく。
4 長期的規模拡大対策計画の実践
 ① 茶は土地利用型作物であり,ある程度の面積規模が必要である。
 ② 規模拡大による効率的な機械・施設の導入で,労働費が削減される。
 ③ 高齢・兼業農家の茶園を借り受ける等,最小限の支出による規模拡大を検討する。
 ④ 自己資本を充実させ,規模拡大等に必要な資金管理を適切に行う。
 ⑤ 自家労働で,毎年少しずつでも新植できないか。
5 茶工場,地域全体で取り組むこと
 ① 産地間の格差もみられるが,同じ地域でも茶工場間の経営的格差が見られる
  場合がある。茶工場ごとの特徴ある茶づくりや製造工程における改善は,個人
  だけの取組でできるものでもない。組合員や系列農家全体での意思統一が大前
  提になる。
 ② この厳しい情勢を産地としてどう乗り越えていくのか,産地として誰を育成して
  いくのか,補助事業の積極的導入はできないのか等を,茶業振興会が関係機関と一
  体になって真剣に議論・検討する。

1 県内の状況
(1) 茶は,年間の窒素施肥量が他品目より多い約60kg/10a
(2) JA鹿児島県経済連の2020年度の肥料販売量は,茶が全体の3割
(3) 茶業経営費における肥料費の占める割合は,約11%の46,820円(図2)
    今回の肥料高騰により,肥料費が5割上がった場合は所得が約27%,
   10割上がった場合は約56%減少することが予想(図3)
(4) 堆肥は,散布量が多く堆肥の置き場所がないことや,窒素成分量が少な
   いなどの理由で施用が少ない。
(5) 摘採や防除の管理作業時に,土壌を踏圧して通気性・透水性の悪化や
   摘採,せん枝の繰り返しにより,畝間の未分解有機物が堆積
(6) 茶園土壌の酸性化が進み,茶の窒素吸収が低下

図2 茶業経営における肥料費の占める割合
図3 化学肥料の値上率に伴う農業所得の試算

2 対応
(1) 自社製堆肥を活用した肥料費削減
  ・堆肥やボカシ肥料の活用
  ・堆肥舎や堆肥散布機の導入
(2) 県農業開発総合センターが開発した石灰窒素施用と土壌反転の組み
   合わせによる,土壌改良
  ・石灰窒素施用により酸度矯正
  ・土壌反転機との組合せにより根量が増加し,施肥窒素の利用率が高まる
(3) 新しい茶肥料の活用
  ・堆肥を原料の一部とした新しい低コスト肥料の開発(県経済連開発)
   秋肥:ミドリッチ茶1号,ミドリッチ茶2号
   春肥:ミドリッチ茶3号