令和6年産 一番茶の生産対策
昨年の県茶市場の荒茶価格は,コロナ禍前の水準に回復した令和3,4年産より,やや低下し,厳しい取引となりました。また,昨年同様,燃油や肥料・資材の高騰の影響により茶業経営は逼迫しました。一方,有機茶は,茶商からのニーズも高く,高値の取引となりました。
令和6年産も選択買いや品質による価格差が想定されますので,「芽格・色沢・水色」の三拍子揃った‘手触りの柔らかい’良質茶生産とあわせ,コスト低減に努めてください。 さらに,昨年は比較的気象条件にも恵まれましたが,引き続き,気象予報を積極的に活用し,基本技術をもとにした臨機応変の対応が必要です。
◎生葉生産技術
1 春の園揃え
(1)時 期 早場・中間地帯:2月中~下旬
遅場地帯:3月上旬
(2)高 さ
ア 秋整枝面と同じ高さを基本とする
(冬芽を切らない)
イ 再萌芽等で冬芽が出芽や開葉している
場合は,秋整枝面より10mm程度上げ
て,展開した冬芽だけを切り落とす
(図1)
2 施肥,防除
(1)施 肥
ア 春 肥 1回目:1月下旬~2月上旬 2回目:2月下旬~3月上旬
イ 芽出し肥 3月中旬~下旬(摘採25日前)速効性肥料
降雨が少ない場合は,かん水や液肥を用い肥効を高める。
ウ 夏 肥 1回目は一番茶摘採直前~直後,2回目は二番茶摘採直前~直後
(2)防 除
ア 地区の防除暦を参考に,病害虫の発生状況をしっかり観察し防除する。
イ カンザワハダニの防除〈2月下~3月上旬〉
近年,カンザワハダニの春季の発生は少なくなり,代わりに8月頃に更新園など
で多くなっている。これはカブリダニ類など天敵の働きが影響している。
秋季に発生のやや多いほ場では,天敵のカブリダニ類の寄生が認められている
が,今後の発生状況に注意する。
ウ ハマキ天敵(発生予察に基づいて散布),ハマキコンNの活用〈3月中旬頃〉
エ チャトゲコナジラミの防除〈5月上~中旬〉
県内ほぼ全域に拡大している。成葉が一面に「すす病」で覆われ黒くなった茶園では,
一番茶に減収等の影響が出るので,シルベストリコバチの保護・活用を図りながら,
茶園の更新や裾刈りを行い,一番茶後に防除ができない場合は秋期防除も検討する。
オ チャノホソガの防除〈5月中~下旬〉一部地域では,ジアミド剤やIGR剤の
防除効果の低下が見られている(サムコルフロアブル10,カスケード乳剤等)。
3 防 霜
(1)点検・センサーの設置
ア 防霜施設が正常に作動するか早めに入念に点検する。
イ 防霜ファンでは,支柱の傾きや回転,首振り,電気配線
の損傷,センサーの稼働,落雷による故障などに注意す
る。
ウ スプリンクラーでは,水量の確保や,目詰まり,ヘッド
の回転異常,漏水,道路への飛散などに注意する。
エ 新芽が生育すると,樹冠面に置かれたセンサーが茶葉に
覆われて,センサー温度と茶葉温度に大きな差が生じる
ため,センサーは茶株面に置いた木板上に固定する
(図2)。
また,外縁部から3m以上内部に設置する
(周辺部の気温は高い)。
(2)開 始
ア 防霜開始は摘採45日前(萌芽期2週間前)を目安とする。早生品種では冬芽の
耐凍性が,2月下旬頃から3月上旬にかけて急速に低下するので(図3),さら
に10~15日前に開始する。「ゆたかみどり」の萌芽日が早進化し,低温遭遇
率が高まっているので凍害に注意する(図4)。県農総センター茶業部の耐凍性
調査情報を参考にする。
4 被覆・摘採
(1)被 覆
被覆は2~3葉期頃から行い,中7日程度とする。被覆開始の遅れや摘採の遅
れ,強風による葉傷みに注意する。気温が低い際は被覆期間を延長する。
(2)摘 採
ア 茶芽の生育状況を常に観察し,早めの摘採開始を心がける。また,摘採適期が
最大となる頃に工場処理能力が最大となるよう摘採計画を立てる。
イ 「ゆたかみどり」の深蒸し茶生産では,出開き度が低すぎる(摘採時期が早す
ぎる)と色沢が赤褐色を帯びて劣るため,葉が展開し色が乗ってから摘採する。
ウ 摘採機の刈り刃の調整(刃研ぎ,すり合わせ)を早めに実施する。また,作動
オイルや燃料などの漏れは油臭の原因となるので点検する。
エ 摘採前に茶株面の落ち葉,木枝,被覆資材のピンチ等は取り除く(異物混入
防止)。
オ 白茎の混入を防ぐには,摘採は新芽が折れる位置で行う。硬葉化するにつれ摘
採位置を上げる。
カ 出開き度80%程度を越すと急速に品質が低下するため,多収を目的とするド
リンク原料茶生産の場合などにおいても,芯が残るうちに摘採する。
キ 摘採は切れ葉が少なくなるよう丁寧に行う(切れ葉は水赤の主要因)。
ク 摘採葉は直射日光に当てないよう工夫し,早めに工場に運び,適切に管理する。
5 一番茶摘採後の整枝
(1)2回整枝
1回目:摘採直後~5日目 摘採または刈番茶位置
(摘採面が均一(2回目で茎が切られない)な場合は摘採を1回目と見なす)
2回目:17~22日目(二番茶萌芽期2~3日前,萌芽している芽を切ら
ない)1回目より0.5cm程度高
◎加工技術
1 荒茶製造 製茶前に機械の点検・調整と清掃(水赤,異物混入の防止)を徹底する。
(1) 蒸 熱
蒸し程度の違いにより品質の特徴は大きく異なる。蒸し時間が長くなるにつれ,葉緑素の分解が促進するので,味はコクが強く,香りは新鮮香が弱く,水色は濃い緑色となる(図5)。
自工場の製茶機械に適応した蒸し,原料に応じた蒸しを行う。
(2) 粗 揉
機内の茶葉の動きを確認することで,簡易に風量設定が可能。機内の茶葉が排気網に
届かず,放物線を描いて戻ってくる状態が適正な「しとり」状態。排気網に直接当たるよ
うでは風量が多く上乾きしやすく,まったく飛ばない状態では能率が低下する。取り出し
程度は,茎にしわができ,つぶしても水分が出なくなった程度となる。
(3) 中 揉
空気が乾燥する一番茶期は,天気が良いと乾燥が早く,取り出し遅れになりやすいの
で注意する。遅れると茶葉が固く,つや不足,伸び不足になる(精揉操作がしにくい)。
(4) 精 揉
操作の要領は,分銅で圧力をかけ水分を押しだし,表面が乾いてきたら再び圧力を加え
る操作を繰り返す(引きが遅れている事例が多い)。茶葉が揃いだしたら戻し始める。
(5) 乾燥機
近年,乾燥不足を心配するあまり,乾燥機の温度を上げての取 出し過乾燥となり葉緑
素が熱で破壊され,色沢が飴色となる事例 が見られる。精揉機に比べ荒茶の色沢が低下し
ていたら, 乾燥機は温度に頼らず風量を増やす。乾燥程度の確認はハ ロゲン型水分計を
活用する(図6)。本水分計は設定を変 えることで,生葉,粗揉葉,中揉葉,精揉葉を簡
易に測定 できる(県農総センター茶業部令和2年度普及情報)。
2 茶市場情報の活用
茶市場へ出向き,自分の目で品質確認を行ったり,出 向くのが困難な場合は,「ちゃぴおんねっとシステム」 による出荷茶の画像や入札結果,販売実績などを積極的 に活用し,品質改善やほ場・品種毎の売上実績を整理す るなど経営戦略に役立てる(図7)。
◎ てん茶の生産技術
1 被覆方法
被覆は,一般的に直がけで遮光率85%資材を用い,茶芽が2葉期程度の時期に開始し,期間は一番茶で20日(表1),二番茶で14日程度とする。被覆開始が遅くなると,天候によって摘採時期が早まった場合,十分な被覆効果が得られないため遅れないよう注意する
(図8)。
2 摘採時期
一番茶では,遮光を開始してから20日目頃が摘採開始の目安であるが,気象条件によって生育に遅速がある。他の茶種に比べ出開き度の進んだ状態(80~90%)となるが,新芽の硬化が進む前に摘採することが重要である。摘採が遅れると下位葉が硬化し,色沢や香気等の品質低下につながる(表1)。
3 てん茶品質の優れる品種
本県では加工用てん茶特性が粉末茶の色沢などで検討されており,「さえみどり,おくみ
どり,せいめい,かなやみどり」などで優れている。
なお,「せいめい」は令和2年に品種登録された農研機構育成の新品種で,本県では、
令和3年にかごしま茶「せいめい」研究会を発足し,産地化と高品質・安定生産技術の
開発に取り組んでいる。
◎ 有機栽培茶への取組み
本県は有機栽培茶への転換が進み、令和4年度の有機JAS認証面積は,592haとなり,県内茶園面積の約7%を占めている。有機茶は,世界各国に輸出可能でニーズが高い。
有機栽培を始めるにあたっては,既存の茶園の転換,または新・改植により取り組むことになるが,収量・品質を備えた病害虫抵抗性品種の選定が重要(表2)。工場の操業や運営なども考慮し,品種を選定する。
◎ クリーンな「かごしま茶」づくり
「茶は食品,茶工場は食品工場」との強い意識を持ち,工場内外の清掃に努める。
茶は単品でなく配合することが前提のため,異物混入があれば多大な損害を被る。
異物混入防止対策や降灰対策,農薬の飛散防止対策,生産履歴記帳管理対策
(履歴開示は開示請求から5日以内)などを徹底する。「お知らせ旗」の設置に取り組む。