秋の茶園管理(平成17年度)

 今年の夏茶は,一番茶の生産が一週間程度遅れた影響をそのまま受けて始まりました。一番茶後降雨が少なくダニ等の被害が一部に見られたものの,梅雨等の影響も少なく順調な摘採・製造がなされました。また,価格的には昨年と同様に,ドリンク原料需要の引き合いもあって,品質・品種による価格差の少ない,特に下物の下支えにより昨年には及びないものの,ほぼ順調な年になりました。昨年は夏茶の収穫過多,最終摘採日を越えての摘採,乾燥害,台風被害など人為的,気象的に樹勢の低下を引き起こした茶園もありましたが,今年は,昨年の事を充分反省しながら今後の秋管理を徹底し,翌年の一番茶に備えたいものです。

秋の茶園管理の重要性

三(四)番茶までの摘採を終え、今樹勢が衰弱した状況にあり、来年の一番茶を考えると早急に樹勢を取り戻すために、以下の三つの代表的な秋の管理作業は非常に重要な作業になります。時期を失しないように徹底した茶園管理を行いましょう。
(1)健全な秋芽の伸育と葉層の確保
・ 最終摘採日の厳守と 葉層を確保した三(四)番茶の摘採
  今年の四番茶は、茶期の遅れにより昨年より摘採可能な茶園は限定される
  昨年より1週間遅れていることを認識する
  葉層を確保した最終摘採
・ 秋芽の健全な伸育  →  病害虫防除の徹底

台風害、潮風害対策の徹底

来年期待される一番茶のための冬芽の形成
(2)根の健全な生育と土づくり
・ 来年1年間利用される吸収根の確保
・ 土壌の物理性、化学性の改善
・ 養分の補給と施肥管理の徹底
(3)秋冬期の冬芽の防寒
・ 防霜対策
・ 秋冬期防霜の実施
・ 順調な耐凍性の獲得

具体的な秋の茶園管理

1.最終摘採の留意点

① 三(四)番茶の摘採を若干上げて、葉層確保を念頭に
  →基部までの摘採は、秋芽が伸びずに芽数型になる。
② 最終摘採日まで日数的に余裕がある場合は、やや芽の出揃いを待って摘採
  →秋芽の芽揃いが良くなる。
③ 最終摘採日の厳守
  秋芽を大きく伸育させるためには、最終摘採日を厳守することが大事
 ア, 最終摘採日
  秋整枝日までに20℃以上の平均有効積算温度(日平均温度-20℃の累計)が
   やぶきた    250℃以上(最低)~300℃
   ゆたかみどり  280℃が必要。
 イ, 最終摘採日の目安
   熊毛地区   8月18~20日   県南部      8月10~12日
   県中・北部  7月30~8月5日   山間・高冷地   7月20~31日
 ウ, 徒長枝が多い場合は、8月中~下旬に徒長枝を除去する

2.健全な秋芽の伸育と葉層の確保

(1)病害虫防除
① 三(四)番茶摘採直後
    輪斑病・・・常発,多発茶園では計画的な防除が必要
    摘採又は整枝後3日以内の防除
② 秋芽生育期
    秋期の病害虫防除は,翌年の親葉となる秋芽を作るためにも,
   翌年の発生源となる密度低下のためにも極めて重要である。
   第1回目 萌芽期~1葉期  最終摘採から18~20日目頃
   第2回目 2葉期~3葉期     〃      28~30日目頃
   ・ 炭そ病 新梢枯死症 ウンカ スリップス ハマキ ホソガ等
   ・ 1,2回目とも殺菌剤と殺虫剤の混用散布
   ・ 病害では1回目は予防効果のある剤,2回目は治療効果のあるEBI剤を用いる。
③ 秋芽生育後期 9月上中旬頃
    クワシロカイガラムシ ハスモンヨトウ等
    ・ クワシロカイガラムシの発生面積率は、昨年今年と拡大してきている。
   園の内部まで良く観察し、初期発生を確実に押さえる。
     幼虫孵化最盛期を確認して防除する。
    ・ 秋冬番茶を摘採する園では,安全使用日数に十分注意する。
④ 秋整枝後
    カンザワハダニ
    ・ 越冬ダニの発生量が翌年の発生量を左右するので重要な防除になる。
     今年の一二番茶時期は非常に発生が多く、防除に苦労した。
    ・ 高精製マシン油剤は,耐凍性の獲得の遅れ,赤焼病の発生を助長する恐れがある。
⑤ 赤焼病
    今年の春先も赤焼病の発生が多かった。
    台風、季節風、寒害等の後の発生が多いので、初発生を認めたら直ちに防除を行う。

主要病害感染時期発病時期潜伏期間発生条件
炭そ病
(菌類)
各茶期及び
新芽新葉展開期
摘採期以降
9~10月
15~20日降雨
高温多湿
網もち病
(菌類)
秋芽新葉展開期10~12月50~60日高温多湿
輪斑病(菌類)
新梢枯死症
摘採・整枝時
秋芽新葉展開期
摘採期以降
8~10月
10~15日
20~30日
降雨・葉の傷
高温多湿
赤焼病
(細菌)
秋季及び早春季
台風時
10~11月
3~5月
10~20日暴風雨
多湿・低温
表 主要病害の発生状況

(2)秋整枝のポイント
① 時期
  近年、秋整枝後の気温が高く経過して整枝時期を遅らせようとの動きも見られるが、秋整枝時期が遅れると翌年の一番茶の収量、品質に悪影響が出るので遅れないように注意する。
  ア,平均気温が20℃以下になった旬
  イ,熊毛地区  10月下旬~11月初旬  県南部 10月下旬
    県中・北部 10月上旬~中旬     山間高冷地 10月上旬 頃を目安にする
  ウ,遅れ芽の発生しにくいやぶきた、晩生品種はやや早めに実施しても良い。
② 方法
  整枝後の葉層は8cm以上確保するようにする。
  ・四番茶摘採園は,秋芽の生育が劣るため、徒長枝と頂芽の葉先を切り落とす程度とする。
  ・三番茶摘採園は,秋芽の2葉を残す(最終摘採位置より3~5cm上げた位置)
  ・徒長枝の多い園や伸び過ぎた園は,日焼け防止として,秋整枝5~7日前に上部をあらかじめ軽く切り落としておく。
  ・秋冬番茶を製造する場合は,深く摘採し過ぎることのないよう注意する。
③ 秋整枝後,再萌芽した場合の対策
  ア,再整枝の目安
   ・再萌芽数が多少あっても翌年の収量・品質にはほとんど影響はない。
    少ない茶園では放置し、翌春化粧ならしを行う。 
   ・20×20cm枠内で再萌芽数が20本を越える場合は再整枝する。
  イ,再整枝の時期と方法
   ・再萌芽が早く、11月上旬までに実施できるようなら、秋整枝と同位置で再整枝する。
   ・11月中旬以降となった場合には、翌年の春整枝時期に春整枝と同じ要領で秋整枝位置から
    0.5~1cm上げて再萌芽した芽を除去する。
    一番茶は若干遅れるが,品質低下はない。

3.根の健全な生育と土づくり

(1)茶の新根は秋期に大部分が出る来年1年間使う新根が出やすい環境を作ってやることが、土づくりの基本である。
① 完熟堆肥、敷草で土壌の物理性、化学性、生物性等を改良する。
  ・施用時期は完熟堆肥であれば苦土石灰と同時期に施用し、深耕まで行う。
   未熟堆肥は、新根に害を与えるので使わない。
  ・表土流亡防止、踏圧の軽減と有機物補給のために、10a当たり1~2t(2~400束)程度の敷草を投入する。
② 土壌の化学性を改良し、肥効を高めるためpH4以下の土壌では、苦土石灰を10a当たり5袋程度施用する。
③ 8月中旬~下旬(完熟堆肥、苦土石灰施用後)の深耕で土壌を軟らかくし、通気を良くする。
  ・樹勢が弱っている茶園や中切り園の深耕は翌年以降とする。また好天が続き、
  乾燥が予想される場合も中止する。
(2)適正施肥で樹勢の回復を① 樹勢回復、樹勢強化のため秋肥は早めに分施する。
  ・最終摘採直後と9月上旬に窒素成分で、10a当たり8kgを越えない範囲で施肥する。
  ・土壌中の窒素濃度をみると,秋は必要以上に濃度の高い事例が多く見られており、
   環境保全の面からも春肥より施肥量を減らす。
   また、有機配合割合の高い肥料を施用する。

4.干害,台風・潮風害対策を十分に

(1)干害対策
① 好天が続き、幼木園で干害が心配される場合は、かん水を行う。
  ・かん水量の目安としては、幼木園では5日おき20mm。
  ・敷き草は干害防止には非常に効果が高い。
(2)台風・潮風害対策
① 台風の襲来に備え、防風垣の設置、散水施設の点検、排水溝の整備などを確実にする。
  ・幼木園では台風で地際部が回されたり倒伏の恐れがあるので、土寄せを行ったり、
   地上部が過繁茂している場合は、整枝を行う。
② 台風通過後の潮風害対策のための散水は速やかに行う。10a当たり5t以上(2時間以上)
  ・潮風害を受け,樹勢が著しく弱った茶園では、秋整枝は避けて春整枝をする。
  ・秋整枝の時期と程度は、潮風害を受けた時期と程度によって変わってくる。
③ 赤焼病の常発園では傷口からの感染の恐れがあるので銅剤等で防除する。

5.冬芽の凍害回避のための秋冬期防霜

(1)冬芽の生育特性
① 冬芽の区分 秋整枝によって3種類の冬芽がみられる。
   頂芽   冬芽の一番上の成長点の芽が秋整枝で切られずに残った芽
   上位芽 成長点の芽が秋整枝で切られた茎の一番上の芽
   下位芽               〃                                     二番目以降の芽
② 冬芽の特性
   それぞれの冬芽によって特性が異なる。
    休眠の深さ   頂芽   > 下位芽 > 上位芽
    水分含有量  上位芽 > 下位芽 > 頂芽
    凍害発生率  上位芽 > 下位芽 > 頂芽
(2)秋冬期防霜
① 早生品種(ゆたかみどり,あさつゆ)や中切りしたやぶきた等で秋冬期に凍害を受け、芽つぶれを起こす茶園がみられる。
これらの品種は特に注意が必要である。
  ・秋冬期防霜は防霜ファンやスプリンクラーで行う。
② 秋冬期の防霜が必要な期間は,初霜期から平均気温が10℃を恒常的に下回る12月25日頃まで。
  ・初霜時の防霜設定温度は2℃,12月では0℃程度とする。
(3)幼木園での幹割れ対策
① 今年,又は昨年定植した幼木園は「幹割れ」が予想されるので、これらの園では7月中に施肥は終わる。
エン麦等の間作を早めに植え付けを行い、初霜期の防霜対策を確実に行う。
  ・株元の敷き草は、温度低下を招くので冬期は、株元から離して畦間に寄せる。
  ・品種別裂傷型凍害(幹割れ)抵抗性

 強弱品種名
弱い

強い
ゆたかみどり、めいりょく、おくゆたか、べにふうき
あさつゆ、おくみどり、さえみどり
やぶきた、あさのか

生産履歴の有効活用

一昨年の3月から全県的に実施された生産履歴の記帳は、3年目となりました。全国の茶商からも大きな信頼と期待を得ており、「かごしま茶」の有利販売、銘柄確立の大きな力になってきていることは確実です。開示の要望は今後も出されることが十分予想されますので、いつでも請求があったら答えられるように正確な記帳と整理が常に必要です。この履歴を基に栽培管理面、製造販売面の一年間のデータの整理、分析、反省を行うことで来年以降の経理に役立てよう。
(1)記帳データの確認
・効率的な記帳がなされたか。更に工夫、改善する点はないか。
・記帳ミスや記入もれはないか。
・開示請求には速やかに開示できるか。
(2)経営改善への有効活用
① 茶園ごとの取りまとめ
   茶期ごとの  収量  単価  販売金額
   農薬散布回数  施肥量  無駄な散布はなかったか 
   病害虫の発生状況  摘採時期  施肥効果
② 数値の分析
   他の茶園と比べてどうか
③ どこをどう改善していくか
   せっかく苦労して記帳した大切なデータです。大いに経営改善に役立てましょう。