一番茶生産対策(平成21年度)
昨年の本県産茶は,一番茶から各茶期を通して価格が低迷し,加えて燃料費や各種資材等の高騰によるコスト高で,生産者にとっては茶業経営を根本から見直す必要を迫られた大変厳しい試練の年になりました。今こそ現状の課題を正確に整理・分析し,将来に向けた新たな取り組みを進めていく転機であり,今年はその正念場の年になります。茶工場を中心に系列農家を含めた検討を十分行い,経営戦略をしっかり立てて取り組みを進めましょう。
そのためには,最も重要な一番茶を良質茶生産を基本として,確実に間違いなく生産・製造する必要があります。また,昨年から始まった「クリーンなかごしま茶づくり」第六期対策や「かごしま茶生産工程管理(かごしま茶基礎GAP)」等の安全・安心な取り組みを更に進め,かごしま茶の有利販売や消費拡大に向けて茶業界一丸となった取り組みを行いましょう。
今年産茶の経営戦略
1.茶業情勢(20年産茶)
・国内生産量は減少見込み――価格低迷により全国的に生産量は減少見込み。87,200t程度か
・輸入茶の減少―――――――中国茶敬遠の影響から2割近く減少見込み。8,000t程度
・ドリンク茶も微減―――――ミネラルウォーターが増加
17年のピーク以降横這いから微減傾向で低価格化。
・リーフ茶は厳しい―――――リーフ茶消費量は依然として減少傾向が続いている。
1世帯あたり購入量980g(94%)程度と1000gを割り込みそう。
・食の安心・安全――――――産地偽装,中国産食品問題等で更に強い対応が求められる。
2.平成21年産茶の見通し
・国内産茶の生産量減,輸入茶の減少が予想されるものの,依然としてリーフ茶の消費は低迷傾向。世界的不況の影響を受けることも予想される。
・ドリンク茶の原産国表示義務化が追り,夏茶の状況は回復できるか
・国内の他産地茶園面積は,減少傾向が続いている。
・昨年制定された「お茶一杯の日」を基本にして,茶業界上げての消費宣伝活動に期待
3.平成21年産茶に求められること
厳しい経営環境の中,管理・生産・販売の経営戦略をしっかり立て,コスト低減対策を産地の特徴を生かした良質茶生産が第一の基本となる。
この良質茶生産を基本に市況や気象変化に対して臨機応変の対応
安全・安心な茶―――生産履歴開示の徹底,茶生産工程管理(GAP)への取り込み
(1)年間を通じた生産量,品質の確保
現状のような茶業情勢の中では,年間を通じてどう生産量,品質を確保していくかが大きな課題になる。
10a当たりの年間販売額をいくらにもっていくのか。
各茶期ごとの生産量,販売金額は 〃 。
(2)経営改善計画の見直し・樹立
・以前作成の計画は,算定基礎の荒茶単価が低下している→計画が成り立たない
・経費の増加→重油等燃料費は以前に戻ってきたが,他の資材は上昇が大きい
・今回出された「コスト低減対策」を十分参考にする。
万全な霜害対策を
昨年は大きな霜害も無く順調な一番茶生産であったが,毎年人為的なミスによる被害が発生している。一番茶で霜害に遭うことは茶業経営にとっては大きな痛手であり,失敗を絶対しないために万全の対策が必要である。設置してから既に耐用年数を超えている防霜施設も多くなってきている。早めに確実に稼働できるように準備を行う。
幼木園等で施設のない園では,トンネル被覆等を設置し霜害を防ぐ。
昨年は防霜ファンの電線盗難の被害が多発生した。施設の定期的な見回りも必要。
1.防霜開始時期に十分注意
防霜開始は通常,通常摘採45日前を目安とする。
早生種や再萌芽した茶園は更に1週間(摘採55日前)程度早く実施する。
詳細な地域別の気象情報が携帯電話,パソコン等で得られるので,最大限活用する。2.利用上の留意点
(1)防霜ファン
・耐用年数を過ぎたファンの接合部の錆,亀裂等はないか。
・支柱の傾き,茶株面への角度が適切か電気配線に損傷がないか。
・回転や首振りが正常か逆回転していないか。
・センサーが正常に働くか氷水につけて温度計と合って作動するか。
・設定温度は3℃センサーは園で一番低い温度のところに設定温度を合わせる。
・センサーの感温部が葉層の中に埋もれないよう新芽の生育に合わせて位置を調整する。
(2)スプリンクラー
・昼間に点検・整備を行い 配水管の破損 ノズルの目詰まり ヘッドの回転状態
・温度センサーが正常か 必要な水量が確保されているか。 設定温度は2℃
・水を止める時期は,気温が上がり氷が溶け始め,手で払ってバラバラ落ちる時期とし,湿害に配慮し,遅くまで散水しない
・道路等へ水が飛散しないよう圃場の端は処理を行う。
良質茶生産対策
一番茶の基本は第一に良質茶生産,品質を維持した上でどう収量を確保するかが課題。
1.春整枝
(1)春整枝(化粧ならし)は,摘採機の刃の高さに十分注意して慎重に行う。
時期 早場地帯 2月下旬 遅場地帯 3月上旬
芽の動きに注意して,遅れないよう
春整枝の高さ
秋整枝面より切り下げない。冬場に風で立ち上がった葉先を切る程度。
2.施肥,防除
(1)施肥 適期適量施肥で肥効を高める
春肥は年間施肥量の40%程度,3回に分けて施肥する。
①春肥 第一回目 1月下旬~2月上旬
第二回目 2月下旬~3月上旬
②芽出し肥 摘採前25日頃
③夏肥一回目 一番茶摘採直後
(2)防除
①地区の防除暦を十分参考にして防除する。
②農薬の飛散防止には十分注意する。風向き,隣接茶園や作物
③赤焼病 例年発生する園では注意する。
初発生をみたら直ちに一回目の防除を銅水和剤で行う。
④春季ダニ防除 2月下~3月上旬
発生が多い場合は二回散布も必要
葉裏に薬液がかかるように,更に畝の南側など発生が多いので丁寧に散布する。
⑤ハマキの防除
地区の防除方針に基づき,ハマキコンN,ハマキ天敵のいずれかで防除する。
中切り,深刈り等の更新予定園では更新後に設置する。
ハマキ天敵の場合は地区の発生予察に基づいて散布時期を守る。
⑥クワシロカイガラムシ
5月上・中旬 発生予察に基づいて防除する。
発生の多い園では一番茶後中切り更新をして徹底防除する。3.摘採 計画摘採で良質生葉生産を ①摘採前に系列農家を含め,工場処理能力を考慮して摘採日の検討を十分に行う。
②被覆は5日程度とし,摘採遅れにならないように。
③一番茶芽の伸育状況を常に観察し,出開き度を予想して摘採適期を決定する。
④摘採機の刈り刃の調整(刃研ぎ,すり合わせ)を摘採前に必ず実施する。
⑤摘採前に茶園の落ち葉,木枝等は必ず取り除いて摘採する。
4.生葉管理
①摘採後は速やかに工場に搬入する。
アルミシート等で直射日光に当てない工夫と,早めに工場に運び適切な生葉管理を。
生葉を無理に袋に詰め込んだり,運搬の際積み重ねたりしない。
②工場で生葉コンテナに長時間入れる場合は,100%連続送風では萎凋しやすいので,冷却後は間断送風又は風量を50%程度減らし連続送風とする。
5.荒茶製造上の注意点
①欠点茶,欠陥茶を作らない。
市場取引において毎回乾燥不足や煙臭などの欠点茶,欠陥茶が見られる。製造上の一寸したミスによるもので,荒茶の評価を大きく落としている。万全の注意をする。
②原料や気象変化に適した製造を行う。
生葉の品質を十分に見極め,原料に合った蒸し程度で製造する。硬葉を無理に蒸し崩さない。荒茶でかさついた硬い物があるので空気の乾燥状態に応じて風量を調整する。
③情報を活用する
市場性に応じた特徴ある良質茶生産と消費者ニーズに対応するため,市況,市場情報を積極的に収集し,製造に生かす。
④茶工場の効率的な操業に努める。
高騰していた燃料費も下がってきたが,計画摘採により生葉を連続して製造できる体制を作るとともに,工場の効率的操業を行う。
6.異物混入防止対策
生葉や荒茶段階で異物混入防止対策が徹底していない工場が散見される。消費者の食品衛生管理に対する要望は,更に高まってきている。
「茶は食品,茶工場は食品加工場」との強い認識が必要である。
【主な留意事項】
①摘採前に必ず茶園面の落ち葉,雑草等を取り除く。
②茶工場は常に整理・整頓を徹底し,食品加工場として位置づける。
③茶工場で働く人に対する食品衛生管理面の教育も必要である。
④乾燥後の荒茶は必ず篩分機を通し,頭は目視で異物を取り除いて出荷する。
⑤桜島降灰には万全の対策を行う。
7.乾燥・配合の徹底
乾燥不足・配合不良で取引保留になる事例が見られる。十分な対策が必要である。
①荒茶の乾燥は十分に (茶は乾燥食品,含水率は4~5%)
②投入量は乾燥機の能力に応じて (深蒸茶は投入過多になりやすい)
③熱風温度 80~90度(軽微な火香は芳香)
乾燥時間 20~25分(時間のチェックを)
④乾燥不足の原因 温度不足 時間不足 投入量過多 風量不足 精揉の早出し
⑤出物(頭等)は再乾燥して出荷する。
⑥荒茶の配合は,配合機を利用して均一配合に努める。
8.荷口まとめ
①大型機械利用や労働力の有効活用により共同計画摘採を実施し,コスト低減を図る。
②できるだけ合葉製造による荷口の取りまとめを行う。その際,合葉の履歴記帳も行う。
③入札,販売業務の円滑化のためにも荷口はまとめる。
9.事故防止対策
①乗用摘採機等の運搬の際は,道路交通法を遵守する。
②一番茶の製造は,連続の長時間操業になることが多いので,交代人員を確保する。
③機械に巻き込まれない服装や,機械掃除・修理点検の際は必ず電源を切って行う。
かごしま茶生産工程管理(かごしま茶基礎GAP)を更に進めよう
”かごしま茶の安全・安心・信頼システム(生産履歴)”の昨年の開示請求件数は35,000件を越える見込みであるが,更にこれらの取り組みを確実なものにするため,昨年から「クリーンなかごしま茶づくり」第六期対策でかごしま茶生産工程管理(かごしま茶基礎GAP)を茶業関係者一丸となってスタートした。茶工場を中心に確実な取り組みをお願いしたい。
1.かごしま茶生産工程管理(かごしま茶基礎GAP)とは
①茶は生産段階において,残留農薬・異物混入・病原微生物等の危害が生じる恐れがある
②これらの危害要因を事前に分析し,農作業のチェックリストを作成し,
③これを基に農作業を点検・記録して改善に役立てる という手法
生産履歴開示やクリーンな茶づくり等を項目化してチェック・改善するという取り組み2.取り組みの内容
①茶園管理チェック表・・・生葉生産段階でのチェック表
系列農家・組合員の分を茶工場が確認する
茶工場チェック表・・・茶工場段階でのチェック表
各市町茶業振興会が確認する
②チェックする時期は,各茶期が終了した時
③チェックで指摘された改善点は,可能な限り次の茶期に改善を行う。
2.取り組みのメリット
①安全なかごしま茶を求める消費者の声に応えることは勿論
②この記録を基に各生産者個人が作業の改善を行えば,コスト低減や品質向上により茶業経営上も大きなメリットになる。
消費者はもとより,自分の茶業経営確立のために全員でこの取り組みを進めよう。