秋の茶園管理（平成21年度）

　今年の茶業情勢は，昨年からの価格低迷に引き継ぎ，これまで経験したことのない更に厳しい試練の年になりました。昨年から茶業経営の見直しを進め，それなりの対応はしてきましたが，今が一番の正念場と言えます。このような時，生産意欲の有無が来年度の茶品質に大きく影響してきますので，意欲と期待を持って秋の茶園管理に取り組み，来年に備えたいものです。秋冬番茶についてはある程度の需要は見込めますので，単価や経費を見比べながら可能な範囲での取り組みをお願いします。また，今年の茶生産が終わった今，状況を反省しながら資金繰りや償還計画など早めの対応を行い，今後の茶業経営計画を見直してじっくり将来を見据える必要があります。

今年の茶業経営の総まとめを

1.現状の分析と認識

　茶価格が更に低迷　販売金額の減少・経費の増加→所得の減少

（１）今年度茶業実績の分析と反省

• ほ場別・茶期別・品種別に年間の生産量，単価(品質)，販売金額は等はどうだった　生産履歴の活用
• 経費の分析　経営全体，単位面積当たり経費(コスト)がとれだけ削除できたか
• 所得の分析　販売金額－経費＝所得がどうなった　黒字が確保できそうか
  これらの数字がどう変化したか　償還金は返還できるか　生活費は確保できるか
  →今年の単価をどこまで引き上げられるか　引き上げなければならないか

（２）技術的に収量，品質をどう確保するか

　基本技術を確実に実践するための体制づくりをどうするか

２.経営のビジョン(経営改善計画)の更なる見直しを

　現状分析を踏まえ、現況の単価で修正・見直しを→新たな経営ビジョン

（１）経営ビジョン達成のために
　３年後、５年後、１０年後の経営をどうしていくか→経営改善計画
製茶機械、乗用管理機等の更新は　茶園面積がどれくらい必要　後継者が継続できるか
10年後はこうありたい→では５年後はここまで→３年後にはここまで→来年はここまで
長期計画　　　　　　　　　中期計画　　　　　　　　短期計画
各年度ごとにやるべきことを明確にしておけば、今やるべきことがより具体的になる

3.改善計画の実践

・来年度の経営戦略←来年実現しなければならないこと
・中・長期計画を実現・実践するために
　自分個人でなんとかできる　努力すること(資金調達、人員確保、栽培管理、経営管理等)
　行政・指導機関の支援が必要なこと(補助事業、土地集積、制度資金等)

自分個人でできること、支援が必要なことを明確に区分し、支援がいる場合は早めに相談
ビジョンづくり、経営改善計画づくりは家族全員、茶工場組合員全員で現状を理解し、目標・方針を共有して、全員が同じ目標に向かって進むことが一番大切なことである。

４.かごしま茶基礎GAPの確認

　秋製枝、秋冬番茶が終わったら「かごしま茶基礎GAP」の確認を組合員、生葉生産者の分も含めて確実に実施し、うまくできなかった事項については来年は実施できるように、具体的に検討を行う。

秋の茶園管理の重要性

　三(四)番茶までの摘採を終え、今樹勢は衰弱した状況にあり、来年の一番茶を考えると早急に樹勢を取り戻すために、以下の三つの代表的な秋の管理作業は非常に重要な意味を持ちます。時期を失しないように、生葉生産者の意欲を喚起しながら徹底した茶園管理を行いましょう。

１.健全な秋芽の伸育と葉層の確保

　今年は、中切り・深刈り面積も多く樹勢も回復
・最終摘採日の厳守と葉層を確保した三(四)番茶の摘採
　　来年の一番茶を意識した最終摘採に努める
・秋芽の健全な伸育→病害虫防除の徹底
台風害、潮風害対策の徹底

来年期待される一番茶のための冬芽の形成

２.根の健全な生育と土づくり

・ 来年１年間利用される吸収根の確保―――深耕・土壌改良
・ 土壌の物理性、化学性の改善――――――　　　〃　　　　
・ 養分の補給と樹勢の回復・向上―――――施肥
・水分ストレスの軽減――――――――――かん水

３.秋冬期の冬芽の防寒・防霜対策

・ 秋冬期防霜の実施　　
・ 順調な耐凍性獲得のための適切な肥培管理
開発センター茶業部では、ホームページで耐凍性の獲得状況を11・12月随時公表します。　　　　
http://www2.kiad.pref.kagoshima.jp/

具体的な秋の茶園管理

1.最終摘採の留意点

　① 葉層確保を念頭に、三（四）番茶の摘採位置を若干上げる。
　→基部までの摘採は、秋芽が伸びずに芽数型になる。

　 ② 最終摘採日まで日数的に余裕がある場合は、芽の出揃いを待って摘採
　→秋芽の芽揃いが良くなる。

　③ 最終摘採日の厳守
　秋芽の充実をはかるために、最摘採日を厳守することが大事
　ア, 最終摘採日
　秋整枝日までに２０℃以上の日平均有効積算温度（日平均温度－２０℃の累計）が
　　やぶきた　　　　２５０℃以上（最低）～３００℃
　　ゆたかみどり　 ２８０℃が必要。
　イ, 最終摘採日の目安
　　熊毛地区　　　８月１８～２０日　　 県南部　　　　　　８月１０～１２日
　　県中・北部　　７月３０～８月５日　  山間・高冷地　　　７月２０～３１日

2.健全な秋芽の伸育と葉層の確保

（１）病害虫防除

① 三（四）番茶摘採直後
　輪斑病・・・常発，多発茶園では計画的な防除が必要
　摘採又は整枝後３日以内の防除
　アミスター耐性菌の発生している圃場があるので注意
② 秋芽生育期
　秋期の病害虫防除は、翌年一番茶の親葉となる秋芽の健全な生育や，翌年の病害虫発生源の密度低下のためにも極めて重要である。
　第１回目　萌芽期～１葉期　 最終摘採から　　 18～20日目頃
　第２回目　２葉期～３葉期 　　　　〃 　　　　 28～30日目頃
・ 炭そ病　新梢枯死症　ウンカ　スリップス　ハマキ　ホソガ等
・ やぶきた等炭そ病に弱い品種は１，２回目とも殺菌剤と殺虫剤の混用散布
・ 病害では１回目は予防効果のある剤、２回目は治療効果のあるＥＢＩ剤を用いる。
③ 秋芽生育後期　９月上中旬頃
　クワシロカイガラムシ　ハスモンヨトウ等
・ クワシロカイガラムシの発生面積率は、昨年今年と拡大してきている。
　園の内部まで良く観察し、初期発生を確実に押さえる。
　幼虫孵化最盛期を確認して防除する。
・ 秋冬番茶を摘採する園では，安全使用日数に十分注意する。
④ 秋整枝後
　カンザワハダニ
・ 越冬数が翌年の発生量を左右するので重要な防除になる。
・高精製マシン油剤の散布は、耐凍性の獲得の遅れ、赤焼病の発生を助長するので、散布する場合は１月以降とする。
⑤ 赤焼病
・台風、季節風、寒害等の後の発生が多いので、初発生を認めたら直ちに防除を行う。

（２）秋整枝のポイント

① 時期が遅れると翌年の一番茶の収量、品質に悪影響が出るので遅れないように注意
ア，平均気温が２０℃以下になった旬
イ，熊毛地区　 １０月下旬～１１月初旬　 県南部 　　１０月中旬～下旬
　　県中・北部 １０月上旬～中旬　　　　 山間高冷地 １０月上旬 頃を目安にする
ウ，遅れ芽の発生しにくいやぶきた、晩生品種はやや早めに実施しても良い。
② 方法　 整枝後の葉層は８ｃｍ以上確保するようにする。
・四番茶摘採園は、秋芽の生育が劣るため、徒長枝と頂芽の葉先を切り落とす程度とする。
・三番茶摘採園は、秋芽の２葉を残す（最終摘採位置より３～５ｃｍ上げた位置）
・徒長枝の多い園や伸び過ぎた園　日焼け防止として、秋整枝５～７日前に予備整枝
・秋冬番茶を製造する場合は，深く摘採し過ぎることのないよう注意する。
③ 秋整枝後，再萌芽した場合の対策
ア，再整枝の目安
・再萌芽数が多少あっても翌年の収量・品質にはほとんど影響はない。
　少ない茶園では放置し、翌春化粧ならしを行う。　
・20×20cm枠内で再萌芽数が２０本を越える場合は１１月上旬までに秋整枝位置より深くならないように再整枝する。

3.根の健全な生育と土づくり

（１）茶の新根は秋期に大部分が出る
　来年１年間使う新根が出やすい環境を作ってやることが、土づくりの基本である。

① 完熟堆肥、敷草で土壌の物理性、化学性、生物性を改良
・完熟堆肥を８月中～下旬に苦土石灰と同時に施用し、深耕まで行う。
未熟堆肥は、新根に害を与えるので使わない。
・表土流亡防止、踏圧の軽減と有機物補給のために、10ａ当たり１～２ｔ（2～400束）程度の敷草を投入する。

② 土壌の化学性を改良するためｐＨ４以下の土壌では、苦土石灰を10ａ当たり５袋程度施用

③ 完熟堆肥、苦土石灰施用後の深耕で土壌を軟らかくし、 通気を良くする。
・樹勢が弱っている茶園や中切り園の深耕は翌年以降。乾燥が予想される場合も中止。（２）適正施肥で樹勢の回復を① 樹勢回復、樹勢強化のため秋肥は早めに分施する。
・最終摘採直後と９月上旬に窒素成分で、10ａ当たり８kgを越えない範囲で施肥する。
・土壌中の窒素濃度をみると、秋は必要以上に濃度の高い事例が多く見られて
おり、環境保全の面からも春肥より施肥量を減らす。
また、有機配合割合の高い肥料を施用する。

4.干害，台風・潮風害対策を十分に

（１）干害対策

① 好天が続き、干害が心配される場合は、かん水を行う(幼木園含む)。
・かん水量の目安としては、５日おき２０ｍｍの夜間散水。 敷き草は干害防止には大きな効果。

（２）台風・潮風害対策

① 台風の襲来に備え、防風垣の設置、散水施設の点検、排水溝の整備などを確実にする。
・幼木園では台風で地際部が回されたり倒伏の恐れがあるので、土寄せを行ったり、地上部が過繁茂している場合は、整枝を行う。
② 台風通過後の潮風害対策のための散水は速やかに行う。１０ａ当たり ５ｔ以上（２時間以上）
・潮風害を受け，樹勢が著しく弱った茶園では、秋整枝は避けて春整枝をする。
③ 赤焼病の常発園では傷口からの感染の恐れがあるので銅剤等で防除する。

5.冬芽の凍害回避のための秋冬期防霜

（１）冬芽の特性　冬芽の種類(形成位置)によって特性が異なる。

休眠の深さ　 頂芽　　＞　下位芽　＞ 上位芽
水分含有量　 上位芽　＞　下位芽　＞　頂芽
凍害発生率　 上位芽　＞　下位芽　＞　頂芽

（２）秋冬期防霜

① 初霜時や秋冬期に凍害を受け、芽つぶれを起こす茶園がみられる。早生品種（ゆたかみどり，あさつゆ）や中切りしたやぶきた等では特に注意が必要である。
・秋冬期防霜は防霜ファンやスプリンクラーで行う。
② 秋冬期の防霜が必要な期間は，初霜期から平均気温が１０℃を恒常的に下回る１２月末頃まで。
・秋冬期の防霜設定温度は春期に比べ低めとし、初霜時は２℃，１２月では０～－２℃程度

（３）幼木園での幹割れ対策

① 今年，又は昨年定植した幼木園は「幹割れ」が予想されるので、７月中に施肥を終える。エン麦等の間作を早めに植え付けを行い、初霜期の防霜対策を確実に行う。
・株元の敷き草は、温度低下を招くので冬期は、株元から離して畦間に寄せる。
・品種別裂傷型凍害（幹割れ）抵抗性

強弱	品種名
弱いやや弱い 中 強い	ゆたかみどり、めいりょく、おくゆたか、べにふうき あさつゆ、おくみどり、さえみどり やぶきた、あさのかかなやみどり