一番茶生産対策(平成23年度)

同時不況

 「茶業界は景気に連動する」。古くから聞かれる言葉です。いわゆるリーマンショックに端を発した世界同時不況の影響で,あらゆる産業の業績が悪化し,ここ数年,新聞に「不況」という文字が登場しないことはありません。 農業も例外ではなく,県内土地利用型品目(畜産は生産牛と酪農)について,五年前と現在の推定所得を比較すると,茶の落ち込みが最も大きいですが,他の品目も一様に所得を減らし,平均では十五%程度の低下となっています。

 不況の影響は,茶に限らず農業全体に確実に及んでいます。  普及指導員による調査では,昨年度から本年度にかけて操業をしなかった県内製茶工場の数は,二十四工場ありました。他県では,十haを超える規模の工場の廃業や,問屋の倒産等が相次ぐなど,さらに厳しい状況にあり,経営体力の差が経営の存廃を左右する状況にあります

近年の一番茶の状況

 一般に,荒茶単価については南薩等の早場産地が有利とされてきました。しかし,平成十七年度以降に県茶市場に二トン以上上場した工場等のうち,上位の三十%に位置付けられた地域ごとの件数割合を集計すると,平成十七年は南薩で約五十%,熊毛は八十三%の工場等が上位に入っていますが,価格の悪かった平成二十一年は,南薩の割合は三十%程度に低下し,熊毛については上位三十%に全く入らず,逆に遅場の産地である姶良や北薩が増加しているという状況となりました。このことからみると,市場価格はこれまで時期相場とされていた要因が小さくなり,品質で評価されていることを示しており,早場産地の優位性が縮小していることが現れています。要因を単価のみとし,収量については加味していないため,これが経営にそのまま影響するという訳ではありませんが,認識しておく必要はありそうです。

一番茶の生産対策

 二十二年産の一番茶価格は、前年よりやや持ち直しましたが、県外産地の大規模な霜害による減収が主因と推察され,状況が改善したとはいえません。また,桜島降灰への対応については,あらゆる対策を講じることが不可欠ですが,その取り組みに経営を押し上げる効果は無いことから,そのことも織り込んだ対策が必要です。


(1)防霜対策県外の話題が先行し,県内の被害についてはあまり着目されませんでしたが,ここ数年毎年県内各地で被害が確認されており,これまで被害の無かった圃場についても被害が見られるようになりました。価格低迷下でも,一番茶の収益割合に変わりはないので,万全の状態で臨めるよう準備しましょう。

 防霜開始は,摘採四十五日前が目安となりますが,早生品種等はさらに一週間程度早くなります。防霜施設は,古くなっているものも多いと思います。防霜ファンとスプリンクラーについて,主な点検項目等を表二にまとめたので,参考にしてください。

(2)整枝技術(化粧ならし)遅れ芽や再萌芽が多い場合,五mmから十mm上げた位置で整枝します。見た目は悪いですが,三十cm四方の枠内に二十本程度の再萌芽であれば,収量・品質にほとんど影響はありません。なお,降灰の影響等により,刈り刃の切れ味が悪くなっている機械が増えているようなので,確実な整備が必要です。


(3)施肥技術一番茶前に散布する春肥は,年間施肥量の四割を占めます。図三に示すとおり,全吸収量の約八割が葉部に吸収され,二・三番茶への肥効も高いので,肥効を考慮し一月下旬頃から数回に分けて施用します。また,芽出し肥の効果も高いので,速効性の肥料を萌芽期直前に散布してください。

(4)防除技術防除の基本は「現在の病害虫発生状況と,茶芽の生育状況から今後の被害状況を想定し,経済的に許容できない場合にのみ防除する」です。単に発生しているからということで防除を繰り返すと,害虫等の異常増殖につながります。 また,防除経費は工場間の格差が大きく,十aあたり五万円以上の薬剤費がかかる工場もあれば,五千円程度で問題なく生産している工場もあります。表三は年間の防除体系の一例ですが,この体系で二万五千円程度の薬剤費となります。防除回数が一回少なくなると,薬剤費に限らず人件費や燃料費等の散布経費など,大きなコスト削減効果があるので,茶園をよく観察した防除を行いましょう。

(5)摘採時の留意事項

  1. 摘採計画を十分に
  2. 刈り刃の調整をしっかりと
  3. 被覆効果を見極める
  4. 事故の防止
  5. 生葉の保管

○製造のポイント

 生葉品質以上の荒茶はできません。製造技術は,生葉品質をそれ以上落とさないための技術でもあり,丁寧な作業が必要です。

(1)製造の基本は恒率乾燥の持続恒率乾燥とは,茶葉の表面水の蒸発速度と,内部水分拡散速度のバランスが良いことです。感覚としては,茶温は一定で茶葉の手触りが柔らかい状態を保つことです。

(2)粗揉工程にこだわる製茶工程で最も時間を要し,水分の減少も大きいのが粗揉工程(葉打ち含む)です。ここを順調に処理できれば,製品は概ね安定します。取り出し程度をやや硬めとすれば,外観の色沢の黒みやアメ色を防ぎ,製品も安定しますので,粗揉機内で恒率乾燥状態を保つことを意識して粗揉機を操作してください。以下に,視覚的に判断できる機内風量の例を示しました。図で粗揉機内の風量をイメージできると思いますので適度な状態となるよう調整してください。

(3)深蒸し茶の留意事項近年は,やや強蒸し系の製品が少し高くなる傾向にあるため,形状の産地であっても強めに蒸しを行う工場が増えているようです。蒸し程度に影響する要因は,①傾斜度②投入量③回転数④蒸気量の順となるので,深蒸しで濃厚な水色を取りたい場合には,蒸し度判定用のカラースケール等を活用して機械を調整し,原料に応じた製造を行ってください。また。攪拌軸を遅く,胴回転を速くして深蒸しをするときには,駆動ベルトの摩耗に注意が必要です。

(4)精揉精揉の基本はタオルが絞られるように茶葉がよれる感覚です。引きが遅れている事例が多く見られるので,茶葉の水分状態をよく感じて判断して下さい。