一番茶生産対策(平成24年度)

 平成23年の本県茶業を振り返ると,正月の大雪,新燃岳の噴火,3月の震災,遅れた一番茶の生産,荒茶からの放射性物質の検出,秋整枝後の県下全域での再萌芽の発生と,これまでに体験したことのない出来事の多い一年でした。
 本年産茶について予測することはできませんが,良質茶の安定生産が重要であることは変わらないので,各時期の管理を適確に実施するとともに,経営改善への継続した努力をお願いします。

春の化粧ならしについて

 昨年11月の気温は,平年と比較してかなり高く推移し,特に第一半旬に20℃を超えたことが,再萌芽を助長したと推察されます。一番茶まで平年並みの気温で推移すると,摘採が早くなることが予測されるため,以下のような対策が必要です。

(1)整枝の開始時期再萌芽した圃場では新芽の動きが早まることを考慮し,早めに準備をします。新芽の生育開始温度とされる平均気温が10℃を超える前の,2月中旬頃(知覧)までに終えましょう。

(2)整枝の高さ図1再萌芽したやぶきた再萌芽している芽が多い場合には,秋整枝位置よりもやや上げて整枝します。上げすぎると摘採面が上がり減収するため,1~2枚開葉している圃場でも,秋整枝位置より5~10mm程度高い位置を目安とします。

(3)その他整枝を早く実施した場合に,その後の強風等で樹冠面が再度大きく乱れた場合は,一番茶の品質低下を抑えるため再度化粧ならしを実施しましょう。


図1:再萌芽したやぶきた

積雪に対する対応

 昨年の正月は大雪に見舞われ,各地の茶園で積雪がありました。他県の例では,50cmを超える積雪があると枝条の折損被害等が出る場合がありますが,それ以下の場合には大きな問題ないようです。積雪した状態で茶園に入ると樹冠面を乱すため,管理は雪解けを待って行いましょう。

防霜のタイミング

 近年は暖冬傾向にあることから,防霜開始の時期が年々早まる基調にあります。本年については,再萌芽した茶園が多いことから萌芽も早くなり,防霜開始はやや早まる可能性はありますが,気温の上昇がないと新芽も動かないので,無駄なエネルギーを使わないためにも,防霜開始は気象状況をよく注視して行いましょう。例えば,知覧茶業部における最近8年間の気温と耐凍性の獲得状況をみると,「ゆたかみどり」でも2月第4半旬(20日)までは耐凍性を保持しています。このことを認識の上,圃場のある地域の気温をよく確認し,防霜開始の決定を行ってください。

低温が続く場合の一番茶管理

(1)被覆23年産の一番茶は,春先の気象の影響で生 産開始が遅れ,収量も少なくなりました。近年では,市場の要求から被覆期間が延びる傾向にありますが,長期の被覆は減収につながるため,生産量が落ちた一因と推察されます。 図5(SPAD値:H20茶業部)にあるように,天候と生育ステージが合えば3日程度で被覆果は得られ,それ以降は大きく変わりません。茶園の芽の様子と天候を良く確認して,被覆開 始の決定を行って下さい。

(2)摘採摘採時期の気温が低く推移すると,芽の生育は遅れ葉色も乗ってきません。そのような状況で摘採すると,収量・品質ともに落とすことになります。23年は,どの産地でも収穫始めの頃に,そのような例が多く見られました。摘採適期の把握は目視による確認しかないので,こまめな巡回が大切です。 また,芽の状況に合わせた操業の調整がで きるよう,工場や人員の体制も準備しておく必要があります。 図6低温で葉先や縁が黄化

(3)摘採計画の作成ことを始めるに当たっては,何事も段取りが第一です。工場の処理能力に合わせ,被覆や摘採の計画をしっかりと立てておくことが肝要です。製茶期間中に気温が上昇し,短期集中型の茶期となる場合なども,十分に認識しておく必要があります。その場合には,摘採位置を上げたり,生産性の高い品種を優先的に摘採したりするなど,柔軟な対応をすることでリスクを軽減できます。また,芽の生育や天候に併せ柔軟に計画変更できる,パソコンの利用も有効です。工場の処理能力や,人員の配置も含め,様々な状況に対応できるよう,万全の体制で一番茶を迎えましょう。

茶の製造

(1)製茶歩留まりを意識した製造23年産は,荒茶歩留まりも低い年でした。要因は多く考えられますが,摘採時に袋に入れすぎて生葉がこぼれたり,工場の搬送装置や連結部分に,大量に荒茶が残っていたりする例はよく見られます。また,製茶機械への付着や,乾燥状態を確認する際にお茶をこぼすこともあります。一番茶の価値を考慮し,従事者全員に「一芽も無駄にしない」という心がけを徹底させ,歩留まりを意識した生産に心がけましょう。

(2)降灰の除去県茶市場において,23年の降灰混入による上場見送りは675点で,前年より約32%増えました。気象庁によると,桜島も新燃岳も活動の活発化が今後見込まれており,確実な対策が求められています。付着量が多い場合には工場の処理だけでは限界があるため,ある程度圃場で処理してから工場に搬入することも必要です。もしもの時に,いつでも対応できるよう準備をお願いします。また,被覆資材に付着した降灰によると思われる混入もあるようです。細心の注意をお願いします。

(3)乾燥不足及び過乾燥の防止乾燥不足による返品は,23年は前年比46%と大きく減少しました(県茶市場)。技術的に中揉機や精揉機の取り出し程度が安定したことや,比較的に製茶期の天候が良かったため,乾燥しやすかったことなどが要因として推察されます。 一方で,必要以上に乾燥した過乾燥の荒茶も多く見られます。過乾燥は,製品の価値を大きく左右する色沢低下を招くことに加え,荒茶歩留まりを落とす,再火の余地が小さくなる,燃料を多く使うなど,経営に大きく影響する要因ともなります。乾燥程度は外気や湿度,原葉の形質等によって日々変わるため,こまめな確認により適度な乾燥を維持する努力が必要です。

労働災害の防止対策

 最近,茶業者の作業中の事故が増えているようです。ひとたび事故が発生すると,生産どころではなく様々な対応に追われることになります。作業者には事故防止の啓発を繰り返すとともに,機械施設や圃場等における危険箇所への安全対策など,想定される事故への予防策が必要です。また,事業者には作業者の危険を防止するための措置を講ずることが義務づけられており,適切な対応が求められています。

 ○注意を要する主な作業や場所等 ・枕地の狭い圃場や,地盤の弱い場所での乗用型機械の利用と大型機械の移動,運搬 ・生葉受け入れ口や高所等の,転落の危険性のある場所または段差のある所 ・モーターやファン,回転軸,ベルト等,挟まれや巻き込まれの可能性のある場所や高温になる場所・深夜の工場操業

おわりに

 茶業の抱える課題は依然として多くありますが,下を向いてばかりもいられません。今問われているのは,「できる・できない」ではなく「やるか・やらないか」です。あきらめずに,それぞれが改善する努力をしながら「やる」ことで,今年が力強い一年になるよう頑張りましょう。