夏茶生産対策(平成25年度)
本年産の一番茶は,どの産地においても記録的な早さで摘採が開始されました。3月の気温が高かったことが主な要因と推察されますが,茶に限らず早期水稲やさつまいも等も同様に,植え付け等の作業が早くなっているようです。管理作業等,これまで経験したスケジュールよりも早くすすめる必要があるため,一番茶の生産実績を基に計画作業を心がけましょう。また,茶の生産体系は機械を使いこなす技能が生命線です。夏場は,降雨や高温により作業環境が悪くなりますが,作業の安全が全てに優先することを念頭に,良質茶の生産に努めましょう。
1.茶園の管理
一番茶の生産終了後は,整枝,施肥,防除,二番茶へ向けた被覆等の各作業を,一番茶摘採後の約40日間で実施する必要があります。降雨等による作業の中断も想定し,計画的に作業を進めましょう。
(1)施肥管理
農産園芸課の調査によると,平成24年度の年間施肥量の平均は窒素量で54.3kg,金額で42,681円と一時期に比べ減少傾向にあります(表1)。一方で基準値を大幅に超えている経営もあり,環境への負荷軽減の認識を再考して頂きたいと思います。肥効を高める有効な手段は「分施」です。特に,夏場の施肥は降雨による肥料成分の溶脱が多いことから,分施を行うと効果的です。一回当たりの散布量を減らし,散布回数を増やすことで肥効を高めましょう。
(2)病害虫防除
消費者は「安心して飲めるお茶」を強く求めています。特に,農薬に対する関心は世界的に高まっており,これからのお茶の流通を考えたとき,農薬使用量を極力抑えた生産が不可欠となると推察されます。農産園芸課調べによる実態調査によると,農薬費,散布回数ともに減少傾向にありますが,安全使用期間の遵守,隣接園への飛散防止対策等,適切な実施をお願いします。
(3)茶園の被覆
被覆は,400年前から行われている茶の品質の向上技術です。旨味が増加し渋味が減る一方で,被覆期間が長くなると収量は減少するので,良く認識の上技術を活用して下さい。また,県茶市場では昨年から入札時に荒茶と水色に加え,必要に応じて茶殻も同時に陳列するようになりました。葉傷みのない生産対策をよりすすめる必要があります。
ア.被覆の前日除去
朝方被覆を除去し,そのまま摘採が遅れて夕方に摘採・製造を行うと被覆の効果は小さくなりますが,摘採前日の夕刻に被覆を除去し,夜間を経て翌朝製造する場合には被覆の効果はほとんど変わりません。被覆の大きな課題は設置と除去に係る労働なので,早朝からの作業の軽減や労力の分散など,工場の操業に応じた作業体系として活用下さい。
(4)異物混入防止対策
ア.基本的な考え方
異物混入は,生産した工場の信用のみならず,産地の信用にもかかわります。生産から販売まで,どの工程でも異物混入の可能性はあるため,茶に係る全ての人に対策を周知させ,行動を求めることが重要です。
イ.降灰の対策
桜島の噴火回数が少なかったことから,一番茶での上場見送りも少なくなりました。しかし,降灰が無くても風による飛散等で降灰が検出された例もあり,二番茶以降も引き続き注意が必要です。降灰の付着が多い場合には①圃場で一時洗浄を行う,②摘採位置を上げる,③資材に付着した灰からの混入を防ぐ,④摘採機の旋回時ファンを止めるなどの対策を講じて下さい。
2.製造のポイント
夏茶については,一番茶ほど価格の幅がないことから,生産効率を意識した製造を行うことが重要です。特に,電力料金が今夏から値上げされたことや,重油単価が高止まり(図2)していることを意識し,茶機械の性能を活かした製造を行う必要があります。
(1)生葉の温度を上げない管理
原料の段階で痛んだものは,製品も必ず水赤など欠点が出ます。夏場は外気温も高く,茶葉が悪くなりやすい条件にあるため,最も基本的な技術である生葉の管理には特に注意しましょう。
(2)空運転を無くす制御を
製茶工程で,実際に使用されている有効熱量は供給熱量の3分の1程度であり,残りの3分の2は無駄な燃料消費ということになります。特に,蒸熱から粗揉までの工程で8割以上の熱量が使われていることから,この工程に注力することが重要です。ポイントとしては,製茶中の燃料効率を工夫することよりも,空運転を無くすことが最も効果的なので,製茶の流れを意識した製造を心がけましょう。
(3)濡れ葉の製造
雨天時の製品は品質が劣り,製造コストも通常より約10%多くなります。天気予報等で雨天が予測される場合は,前日の処理量を増やしたり置き葉をしたりするなど,大胆な操業計画の変更が必要です。またその場合には,生葉の管理には十分な注意が必要です。
(5)乾燥機の使い方
製造時,乾燥不足を警戒して,熱風温度を過剰に上げて製造を行っている工場が見られます。製茶中に茶温が上がると製茶品質は悪くなるため,温度ではなく風量や乾燥時間を延ばして乾かすことを心がけましょう。また県茶市場においては,油臭や煙臭等の製造上の欠点と推察される荒茶も散見されます。清掃や点検はこまめに実施し,良質茶生産に努めましょう。5月から電力料金が値上げされ,工場用等の電力は概ね12%上昇するとされています。製茶機械では,製茶終了後に機械を停止しても,インバーターやコンデンサー等の待機電力が消費されており,電力使用量の増加要因となっています。製茶終了後は,照明とともにブレーカーも合わせて落とす習慣をつけましょう。
3.労働災害の防止対策
いつもどおりの作業の中から,労働災害は発生します。作業従事者には事故防止の啓発を繰り返すとともに,機械施設や圃場等における危険箇所への安全対策など,想定される事故への予防策が必要です。
◆ハインリッヒの法則
米国の損害保険会社で副部長をしていたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒの研究によると,「一つの重大な事故の裏には29の軽微な事故があり,さらにその裏には300のヒヤリとしたり,ハッとする危険な状態がある」という調査結果を示しています。 【無傷:軽傷:重傷=300:29:1】 事業者には,作業者の危険を防止するための措置を講ずることが,義務づけられており,ひやりとした経験を確実に活かすことが,事故の防止の有効な対策です。ひとたび事故が発生すると,良質茶生産どころではなくなるため,安全対策には最大限の配慮を願います。
4.チャトゲコナジラミの対策
(1)県内での状況
昨年の屋久島での発生に続き,本年3月肝属地区の茶園でも発生が確認されました。園主の意向により当該茶園においては,一番茶摘採前に約50aの茶樹全てを台切りし,周辺のサカキ・ツバキ等,寄生対象植物を伐採した結果,現在まで成虫の発生及び拡散は確認されていません。 早期に発見できれば拡散を抑える対策をとりやすくなるため,定められた調査等は適切に実行し,茶業界全体で侵入警戒・拡散防止に取り組みましょう。