秋の茶園管理(平成22年度)
今年産茶は一番茶期での低温や夏茶期の長雨・日照不足,さらには降灰の影響など,安定した茶生産を行うには難しい年となりました。また,市況も一番茶こそまずまずの相場で推移したものの,二番茶の中盤以降は厳しい相場となった前年と同程度の市況となり,ここ数年の茶価低迷の流れは継続している状況です。このような情勢は,お茶に限らず他品目や国内の他産業についても同様で,生き残るための競争が行われ,コスト削減を柱とした経営改善のための努力がすすめられています。
お茶は永年作物で,品種や品目を容易に転換できないため,現在の経営環境でいかに売り上げを確保し,経費を抑えるかがポイントとなります。これまでも燃料や肥料費など徹底したコスト低減に最大限努めており,これ以上の削減は難しい状況です。しかし,当たり前にしていたことを見直すことで新たなコスト削減対策を見出すことも必要です。
今回の資料は,秋の管理作業のポイントを新たな視点で紹介してありますので茶園をよく観察し,一つ一つの技術に工夫を加える努力をお願いします。
病害虫防除
1 防除に係るコスト表1は,各地区の管理暦から農薬に係るおおまかな費用を算出したものです。地域により病害虫の発生程度が異なるため,金額も異なりますが「とりあえずやっておこう」的に補完的防除まで行うと,年間で3.5~5.7万円の費用がかかることとなります。 防除の基本は「茶芽の生育状況と病害虫の発生状況から,今後の被害程度を想定し,経済的に許容できない場合のみ防除する」ことです。コスト削減が難しいとされるなか,茶園を細やかに観察し,的確な薬剤選定と適期防除を行うことで費用を抑えることができます。意義を理解した防除を実行してください。
2 秋芽生育期の防除秋芽生育期には,主要な病害虫が多く発生します。秋芽を害虫から守ることは,翌年一番茶の生産安定を図るうえで極めて重要となることに加え,来年の発生源を抑えることにもなるので,しっかりと対応してください。
- 輪斑病
「摘採・整枝後直ちに防除する」とされるのは,傷口から感染するためです。最終摘採後,保護殺菌剤の「ダコニール」や「フリントフロアブル」は整枝翌日まで,治療効果を有する殺菌剤の「カスミンボルドー」「アミスター」などは3日後までに散布します。感染後4日以降の防除はほとんど効果がありません。また,「アミスター」「フリントフロアブル」は耐性菌が発生しやすいため,年1回の使用とし同一圃場での連用は避けます。 - 炭疽病
萌芽から2葉期頃に降雨が多いと発生しやすい病気です。秋芽に多発すると,次年度の収量品質に影響するので,秋の防除は特に大切です。なお,以下の画像は全て炭疽病の病斑です。 - チャノミドリヒメヨコバイ,チャノキイロアザミウマ
乾燥した晴天が続くと急激に増殖します。特に,萌芽・生育初期に被害が大きいため,よく茶園を観察して防除してください。また,今年も更新園が多く圃場毎に生育状況が異なるため,注意が必要です。なお,「モスピランSL」「キラップバリアード」「ワークワイド」「ジェイエース」「カスケード」は効果が低下しているので,「スタークル」「ハチハチ」など適切な剤を選定してください。 - チャハマキ,チャノコカクモンハマキ
「ハマキ天敵」を使用しなくなって,9月以降発生が増加する傾向にあります。発生が見られる圃場では,若齢幼虫期をねらい防除します。葉の表に産卵するのがチャハマキ,葉の裏に産卵するのがコカクモンハマキです。 - ヨモギエダシャク,ハスモンヨトウ
今年も増加傾向にあります。被害が拡大するとかなりの減収となるため,2cm以下の若齢幼虫期に防除してください。老齢幼虫になると被害も大きくなり,薬剤の防除効果も低下するため使用できる薬剤が限られ,資材価格も高くなります。
秋整枝
1 整枝時期平均気温が20℃を下回ると秋芽生育が抑制されるようになり,秋整枝の時期となります。しかし,近年では10月以降も温度が十分に低下せず,整枝後再萌芽する事例が見られます。再萌芽を過剰に意識する必要はありませんが,各地の振興局等の情報を参考にしてください。
2 整枝後の再萌芽整枝後,再萌芽して伸びた芽の量が25%を超える場合には,年内に再び整枝を行った方が収量・品質が安定します。その場合の整枝位置は,萌芽程度に整枝面から出た芽は切らない程度の数ミリ上げた位置で,開葉した芽を除去します。25%以下であれば,翌年の春整枝時に除去すればほとんど影響はないので,コスト上昇要因となるむやみな整枝は控えましょう。
3 整枝位置秋整枝は,翌年一番茶の摘採面をそろえることと,芽数をコントロールする目的があります。どの位置で整枝しても一番茶は出てきますが,収量・品質は大きく異なるので茶園の樹勢にあわせた的確な位置での整枝が必要です。 図1は,秋整枝位置の例です。生育の異なる秋芽の中で全体から見て平均的な長さの芽を抽出し,その頂芽が概ね鋏にかかる程度の位置で整枝を行うと,品質・収量ともに安定した一番茶芽が期待できます。なお,近年凍霜害が各地で見られますが,被害を受けやすい圃場では,やや鋏の位置を上げて頂芽を多めに確保しておくと,被害を軽減出来ます。
施肥
秋肥は,摘採等で消耗した樹勢の回復と,翌年一番茶の枝条充実のために施用します。図2に示すように,窒素吸収量(吸収率40%)のうち約半分が根と茎に吸収(春肥の場合は約20%)されることが特徴です。施肥は,なるべく肥効を高めることが最大のコスト削減となるので,時期を見て数回に分けて散布しましょう。 また,有機物を長年入れていない圃場では,長雨等の影響も加わり地力が落ちている可能性があります。深耕や堆肥の投入など,地力の向上に努めましょう。
冬芽の凍害対策等
1 冬芽の凍害とは今年度は,県外産地が大規模な晩霜害に見舞われ,県内でも一部で被害が見られましたが,最近では秋整枝後の冬芽が,秋冬期の低温により凍害を受け,翌年一番茶の収量・品質に影響する事例が知られるようになりました。秋期が遅くまで暖かく,冬芽が十分に耐冬性を獲得する前に,強い低温に遭遇したことが原因です。冬芽の凍害は,包葉の幼葉や生長点部分が被害を受けるため,外観ではよく解りません。図3のように,芽を鋭利な刃物で切断し,中心部の様子を確認する必要があります。
2 耐凍性耐凍性は,品種によって異なります(図4)。晩秋期から徐々に高まり,厳寒期では弱いとされる‘ゆたかみどり’でも-8℃で被害はなく,‘やぶきた’‘おくみどり’では-16℃でもほとんど被害は見られません。しかし,それを下回る温度になると被害を受けるので,温度低下が著しい地域では冬芽に対する防霜が必要となります。
3 秋冬期防霜
- 秋冬期防霜が必要な圃場
かねてから温度の下がりやすい圃場,中切り等により秋芽の生育が良かった圃場,早生品種、中晩生品種でも上位芽主体となった圃場など。 - 実施時期
初霜期から,平均気温が恒常的に10℃を下回る12月下旬を目途としますが,茶業部ではもう大丈夫と思われた平成18年12月30日に,百葉箱で氷点下5.5℃(推定茶株面気温-11℃)を記録し大きな被害を受けました。このような事例もあるため,強い寒波の影響を受けそうな場合は,防霜を行ったほうがよいと思われます。 - その他
農業開発総合センターのホームページで,冬芽の耐凍性獲得状況について11月から情報提供を行っていますので参考にして下さい。 URL http://www2.kiad.pref.kagoshima.jp/
4 その他の気象災害秋に向けて,干ばつや台風等の被害も懸念されます。茶園をよく観察し,適切な管理を行ってください。