令和3年産 一番茶の生産対策

 昨年は,低迷する茶業情勢に加えて新型コロナウイルスの影響を受け,営業自粛や新茶セールなどが開催できず,品質買いや選択買いから茶価が大きく低下しました。令和3年産も同様の傾向が予想されるため,欠点・欠陥のない良質茶生産を心がけ,茶価を大きく下げることのないように, 細心の注意が必要です。
 本年も引き続き,「茶は食品,茶工場は食品工場」との強い意識で「クリーンなかごしま茶づくり」をさらに進め,厳しい経営環境に対応しながら,経営安定に努めましょう。

◎ 一番茶の占める割合

 近年, リーフ茶の消費が低迷し,ドリンク茶の需要が増していることから,年間生産に対する一番茶の割合は低下している。令和元年の茶期別生産量では,一番茶は30%となっている(図1)。しかし,生産量と茶市場単価により試算した生産額の割合では,一番茶は約61%を占めており(図2),依然として経営上重要である。

図1 茶期別の生産量の割合(令和元年)
注) 茶業振興対策資料(令和2年度) より
図2 茶期別の生産額の割合(令和元年)
注) 各茶期の生産量と茶市場平均単価より試算

◎ 生葉生産技術

1 春の園揃え
(1)時期早場・中間地帯2月中~下旬遅場地帯3月上旬
(2)高さ

  • 秋整枝面と同じ高さを基本とする(冬芽を切らない)
  • 再萌芽等で冬芽が出芽や開葉している場合は,秋整枝面より10mm程度上げて,展開した冬芽だけを切り落とす。

2 施肥,防除
(1)施肥

  • 春肥第一回目1月下旬~2月上旬第二回目2月下旬~3月上旬
  • 出し肥3月中旬~下旬(摘採25日前)速効性肥料
    降雨が少ない場合は,かん水を行い肥効を高める。
  • 夏肥1回目一番茶摘採直前~直後
  • 有機茶園の施肥例
  • 一番茶前の低温期は,有機質肥料の分解が遅く肥効が低いため,比較的気温が高く,根の活性の高い秋期に施肥割合を高める施肥法の有効性が早生品種「ゆたかみどり」で実証された。これは従来の春3回秋2回施肥の春1回目(1月下旬)の施肥を早めて,秋肥3回目(10月)とする春2回秋3回施肥法である。
  • 中生品種「やぶきた」では,秋肥は慣行窒素量の半分とし,残りの半分を12月上旬,1月中旬の2回に分けて寒肥として施肥する方法もある。

(2)防除

  • 地区の防除暦を参考に,病害虫の発生状況をしっかり観察し防除する。
  • カンザワハダニ,チャノナガサビダニの防除2月下~3月上旬
    近年,カンザワハダニの春季の発生は少なくなり,代わりに8月頃に更新園などで多くなっている。これはカブリダニ類など天敵の働きが影響している。
  • ハマキ天敵(発生予察に基づいて散布),ハマキコンNの活用5月中旬頃
  • チャトゲコナジラミの防除5月上~中旬

県内全域で発生が多くなっている。成虫の発生ピーク後,成虫がいなくなった頃(若齢幼虫期)が防除時期である。天敵(シルベストリコバチ)の導入と保護活用を図る。「すす病」が見られるような多発園では裾刈りや更新が有効である。

3 防霜
(1)点検・開始

  • 防霜施設が正常に作動するか早めに点検する。
  • 防霜開始は通常,摘採45日前(萌芽期2週間前)を目安とする。

(2)防霜ファン

  • 新芽が生育すると, 樹冠面に置かれたセンサーが茶葉に覆われて,センサー温度と茶葉温度に大きな差が生じるため,センサーは茶株面に置いた木板上に固定する。また,外縁部から3m以上内部に設置する。
  • 支柱の傾き,回転や首振りが正常か,電気配線の損傷,センサーが正常に働くかなど注意する。

(3)スプリンクラー

  • 水量の確保,目詰まり,ヘッドの回転異常,漏水,道路への飛散に注意する。

4 被覆・摘採
(1)被覆

 被覆は中7日程度とし,被覆開始の遅れや摘採遅れに注意する。強風による葉傷みに注意。気温が低いと被覆効果は得られないため,その際は被覆期間を延長する。

(2)摘採

  • 茶芽の生育状況を常に観察し,早めの摘採開始を心がける。また,摘採適期が最大となる頃に工場処理能力が最大となるよう摘採計画を立てる。収益性の高い茶園を優先する。
  • 摘採機の刈り刃の調整(刃研ぎ,すり合わせ)を早めに実施する。
  • 摘採前に茶株面の落ち葉,木枝,被覆資材のピンチ等は取り除く。
  • 白茎の混入を防ぐには,摘採は新芽が折れる位置で行う。硬葉化するにつれ摘採位置を上げる。
  • 摘採は切れ葉が少なくなるよう丁寧に行う(切れ葉は水赤の主要因)。
  • 摘採葉は直射日光に当てないよう工夫し,早めに工場に運び,適切に管理をする。

(3) 出開き度と収量,品質の関係

  • 一般に品質は出開き度が進むにつれて徐々に低下し,硬葉が目立ってくる出開き度80%程度を越すと急速に低下する(図3)。このため,多収を目的とする飲料用茶生産などにおいても,芯が残るうちに摘採する。
  • 逆に,出開き度が低すぎる(摘採時期が早すぎる)と色沢が赤褐色を帯びて劣る。このため,特に「ゆたかみどり」の深蒸し茶生産では葉が展開し色が乗ってから摘採する。
図3 出開き度と収量, 品質の関係例

5 摘採後の整枝
(1) 2回整枝

 1回目一番茶摘採直後~5日目一番茶の摘採位置または刈番茶位置
(摘採面が均一(2回目で茎が切られない)な場合は摘採を1回目と見なす)
 2回目17~22日目(二番茶萌芽期2~3日前)1回目より0.5cm程度高

(2)1回整枝(2回整枝が実施できない場合)

  • 一番茶摘採跡が均一な場合
    一番茶摘採後概ね20日目頃(萌芽期2~3日前)遅れ芽を除く程度の高さ
  • 一番茶摘採跡が不均一な場合一番茶摘採後5~7日目

(3)芽重型茶園などで高い位置で摘採した後に,刈番茶を兼ねて摘採位置より下げて整枝する場合,時期が遅くなると二番茶の収量,品質が低下するので早めに行う。

◎ 加工技術

1 荒茶製造製 茶前に機械の点検・調整と清掃(水赤,異物混入の防止)を徹底する。
(1)蒸熱

 蒸し度の判断で有力な手法は葉色の変化に着目することである。上位葉ほど葉緑素量が少なく,蒸熱時間が長くなることでクロロフィルのフェオフィチン化(緑→黄色→褐色)が見やすくなるので,蒸し度判断の参考とする。

(2)粗揉

 簡易に機内の茶葉の動きで風量設定が可能で,機内の茶葉が排気網に届かず,放物線を描いて戻ってくる状態が適正な「しとり」状態。排気網に直接当たるようでは風量が多く上乾きしやすく,まったく飛ばない状態では能率が低下する。

(3)中揉

 中揉機は供給する乾燥用空気の質の影響を最も受けやすい。空気中の湿度が低い条件では,風量が少なく排気温度も低い状態でもよく乾く(上乾きしやすい)が,湿度が高い条件では,風量を増やすとともに排気温度をあげることも意識する。

(4)精揉

 操作の要領は,濡れタオルを絞る感覚の繰り返しで加錘する。物理的な圧力で水分を押しだし,表面が乾いてきたら再び圧力を加える(引きが遅れている事例が多い)。茶葉がそろいだしたら戻し始める。

(5)乾燥機

 近年,乾燥不足の指摘を心配するあまり,乾燥機の温度を上げて対応し,過乾燥となり葉緑素が熱で破壊され色沢が低下している事例が見られる。精揉葉に比べ色沢が低下していたら,過乾燥の疑いがあり,温度に頼らず風量を増やす。乾燥程度の確認には水分計を活用する。

2 茶市場情報の活用

 「ちゃぴおんねっとシステム」の入札結果や販売実績,出荷茶の画像などを積極的に活用し,品質改善やほ場・品種毎の売上実績を整理するなど経営戦略に役立てる。

◎ てん茶の生産技術

1 被覆方法

 被覆は一般的に直がけで遮光率85%資材を用い,茶芽が1.5~2葉程度の時期に開始し,期間は一番茶で20~25日,二番茶で10~14日である。被覆開始が遅くなると,天候によって摘採時期が早まった場合,十分な被覆効果が得られなくなるため,遅れないよう注意する。

2 摘採時期

 一番茶では遮光を開始してから20日目が摘採開始の目安であるが,気象条件によって生育に遅速がある。他の茶種に比べ出開き度の進んだ状態(80~90%)となるが,新芽の硬化が進む前に摘採することが重要である。摘採が遅れると下位葉が硬化し,裏白や黒み等の品質低下につながる。

3 ネット型てん茶乾燥機における覆い香(青のり様の香り)発揚技術

 ネット型てん茶乾燥機における初期乾燥で,装備した遠赤外線装置(設定200~300℃)により茶葉温度を高くする(約80℃)と,外観の色沢が明るい緑色となり,覆い香味が発揚する。初期乾燥が進むため,その後の乾燥程度を調整する。

◎ クリーンな「かごしま茶」づくり

 「茶は食品,茶工場は食品工場」との強い意識を持ち,工場内外の清掃に努める。茶は単品でなく配合することが前提のため,異物混入があれば多大な損害を被る。
 異物混入防止対策や降灰対策,農薬の飛散防止対策,生産履歴記帳管理対策(履歴開示は開示請求から5日以内)などを徹底する。

1 農薬の飛散防止対策
(1) 農薬飛散によるトラブルが発生しており,徹底した飛散防止に努める。
(2) 隣接耕作者と連携し,散布時期の変更や互いの作物に登録のある農薬を選定する。
(3) 風向,風速に十分注意し薬剤散布する。
(4) 飛散防止用の噴口や飛散防止カバーを活用する。
(5) 農薬散布後は,防除機やタンクなどを必ず洗浄する。
(6)「お知らせ旗」の導入・設置に取り組み,地域内で飛散防止への理解を深める。

◎ 経営改善対策

 経営分析などで課題を見つけ,目標を明確にする。
 家族や組合員等も一緒に目標を共有し,課題を放置せず,確実な進行管理で実践する。(いつ・だれが・何を・どうする,具体的に計画・実行する)将来の茶工場の方向性について話し合いを進める(家族,組合員,地域で)。

※ 機械の正しい取り扱いを確認し,点検・清掃時は必ずエンジンや主電源を止めて行う。